ひとりじゃない


Last Stage


 『ライト博士!ロールちゃん!聞こえますか?』
ライト研究所のメンテナンスルームに、通信機のスピーカーから慣れ親しんだ声が響いた。
 「ロックマン!!」
 「ロック!?ロックなのね!?」
ライト博士が通信機のマイクを取ろうとしたが、一瞬早くロールがマイクを掴んでいた。
そして通信相手であるロックマンの無事を確認すると、ロールの目から再び涙が流れ落ちた。
もちろん今度は絶望の涙などではなく、兄の無事を“心”から喜ぶ嬉し涙だ。
 「ぐすっ・・・ロック・・・良かった・・・良かったよぉ〜」
 『ロールちゃん・・・ごめんね、心配掛けて・・・僕はもう大丈夫。みんなが助けてくれたんだ』
 「・・・え?みんなって・・・」
ロックマンからの通信を聞いて、ロールとライト博士は改めてコンピューターのモニターを見た。
 「やっぱり・・・」

C G I B F E

ロックマンの電子頭脳の状態を示したモニター画面には、洗脳プログラムの「W」が全て消滅し、その6文字だけが小さく残っていた。
 『・・・ライト博士!!僕達はこのままDr.ワイリーを追います!!』
 「あ・・・ああ・・・気を付けるんじゃぞ」
 『はい!!』
ライト博士の言葉にロックマンが元気良く返事すると、短くも希望に溢れた通信は切れた。
 「・・・“僕達”・・・か」
静かに呟きながら、メンテナンスベッドに眠る六人の方を見るライト博士。

トクン・・・トクン・・・トクン・・・トクン・・・

リズミカルに動力炉の命の鼓動音を響かせながら、カットマン、ガッツマン、アイスマン、ボンバーマン、ファイヤーマン、エレキマンの六人は、相変わらず静かに眠り続けている。
 「ロックマンの危機を感じ取ったカットマン達の“心”のプログラムが、ロックマンの電子頭脳に入り込んだ・・・自分達の武器チップが組み込まれた、ロックマンの武器トレースシステムを通じてな・・・そして彼らは洗脳プログラムと戦い、ロックマンを危機から救ったのじゃ・・・」
 「凄い・・・そんな凄い機能があったなんて・・・」
ロールが驚いて感心すると、ライト博士は首を小さく横に振って否定した。
 「・・・いや、武器トレースシステムにそんな機能は備わっておらん。ロボットのメインプログラムを遠く離れた他のロボットに電送し、それを入力するなど、今のテクノロジーでは不可能じゃ・・・だが・・・強い“心”の絆・・・ロックマンを思うカットマン達の“優しさ”が奇跡を起こした・・・科学的には信じ難い事じゃが・・・わしにはそう思えてならない・・・」
 「ライト博士・・・」
科学者としては信じられない出来事でも、父親としては我が子達の起こした奇跡だと信じたい。
そんな父親の気持ちを察したのか、ロールは笑顔でライト博士に自分の“心”を伝えた。
 「私は信じます!!だって私もロックやカットマン達と同じ、ライトナンバーズの“心”を持ってるロボットですから・・・!!」
 「ロール・・・」
同じライトナンバーズの姉として、弟達が起こした奇跡を信じるロール。
そして静かに眠り続ける弟達に向かって、嬉しそうに笑顔で感謝した。
 「みんな・・・ありがとう!!ロックを助けてくれて・・・」
ロールの温かい“優しさ”を感じ取ったのか、カットマン達六人の寝顔も微笑んで見えた。
そしてそんな姉弟達のやり取りを見たライト博士も、嬉しそうに微笑んで頷いた。
 「・・・そうか・・・そうじゃな」
父親として我が子達の強い“心”の絆、そしてその“心”を我が子達に与えた事を誇りに思った。
だがロールに悟られずに天井を見上げた瞬間、ライト博士の表情は一変して厳しくなった。
そして今回の事件の首謀者に向かって、かつての親友として“心”のメッセージを送った。
 (ワイリー・・・見たか?これが“心”じゃ・・・お前が否定した“心”の力じゃ!!)


 「くっ、くそっ・・・ちくしょうっ!!ロボットのくせに・・・ライトが造ったロボットのくせにぃっ!!」
司令室を飛び出したDr.ワイリーは、エレベーターでツインピラミッドの最上部に向かっていた。
その表情には怒り、憎しみ、そして敗北感を打ち消そうとする焦りが、まざまざと見て取れる。
 「・・・ライト・・・ワシは認めんぞ・・・貴様に負けるなど・・・ワシは決して認めんぞ!!」
かつての親友が予言した通り、自分は“心”無き力を求めた結果、またも孤独になってしまった。
全ての防衛ラインを突破され、戦力の殆どを失った今、頼れるのは最早、自分一人なのだ。
だが今まで否定し続けてきた“心”の力に負ける事だけは、どうあっても絶対に認めたくない。

ドォン!!ドォン!!ドォン!!

一方のロックマンも最終決戦に向けて、Dr.ワイリーがいる最上部を目指していた。
ウォッチャーやスクリュードライバーを撃破しながら、長い梯子を上り、通路を駆け抜ける。
 (・・・僕は一人じゃない!!一緒に戦ってくれる兄弟達が・・・みんながいるんだ!!)
どんなに辛く険しい戦いの道も、一緒に乗り越えようと力を貸してくれる兄弟達がいる。
その思いがロックマンの“心”の励みとなり、何があっても前進する勇気の源となっていた。
そして全身を蝕む苦痛を和らげ、ボロボロの身体に活力(エネルギー)を与えていた。
 「・・・行こう!!僕達で人間とロボットの平和を・・・みんなの未来を守るんだ!!」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・!!

 「いいぞ・・・!装甲はまだ未完成じゃが・・・攻撃性能は100パーセント発揮出来る!!」
広大な薄暗闇の中で、巨大な機械に乗り込んだDr.ワイリーは不気味な笑みを浮かべていた。
そしてマスターを乗せた巨大な機械は、エンジンの爆音を響かせながら宙に浮かび上がる。
 「このワイリーマシンでワシ自ら相手をしてやる!!そして・・・勝つのはワシじゃあっ!!」

ガシャンッ!!

忌々しい「W」のマークが刻まれた赤い扉を発見し、それを渾身の力で開けるロックマン。
その途端に彼の目の前に現れたのは、悪魔の様に巨大なワイリーマシンの姿だった。
コックピットに見えるDr.ワイリーの鋭い視線からは、恐ろしい程の殺気が放たれている。
 「Dr.ワイリー!!」
 「ロックマン!!」
お互いの名前を呼び合い、睨み合い、戦意を確かめ合う二人。
身構えたロックマンの右腕がバスターに変形し、その銃口に兄弟達の“心”の力が漲る。
対するワイリーマシンの大砲も敵に向けられ、殺意、憎悪といった怨念のエネルギーが宿る。
いよいよ始まるのだ・・・世界の命運を、そしてそれぞれの信念を賭けた最終決戦が。

 「勝負だ!!」




・・・終わり・・・


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