Believe You
(僕を・・・僕を戦闘用ロボットに・・・改造して下さい・・・!!) 私は今、これから途轍もなく恐ろしい事に手を染めようとしている。 愛する我が子に武器を与え、戦場に送り出そうとしているのだ。 同族同士で傷付け合い、殺し合い、負ければ死ぬかもしれない地獄へとだ。 (・・・分かっています。僕は家庭用ロボットだから・・・力が無いから・・・何も守れなかった・・・) 力なんか無くても良いのに、どうしてお前は力を欲するのか。 お前は何も特殊な力を持たない、普通の子供なのに。 私の可愛い息子として、日々を元気に笑顔で暮らしてくれれば、それだけで良かったのだ。 (・・・でも・・・でも僕は・・・みんなを助けたい・・・人間もロボットも・・・みんなが仲良く暮らせる平和を・・・未来を・・・取り戻したいんです・・・) 兄弟達、友達、平和・・・悪魔に奪われた皆の未来を取り戻す為に戦う。 だが何故、その為にお前が犠牲になる必要があるのか。 それが神に与えられた使命だと言うのなら、神は何て残酷な運命を仕組んだのだ。 (お願いです、博士・・・僕に力を・・・戦う力を・・・下さい・・・) いくらお前の願いでも、他に方法は無くても、私はその願いを聞き入れたくはなかった。 父親ならば我が子の命を守るのは当然の事なのに、その命を危険に晒す事になるのだ。 果たして私は父親として、お前に正しい事をしようとしているのだろうか。 「うっ・・・」 ベッドに眠る傷付いた息子の前で、手術器具を持つ私の手が震えて動かなくなった。 この手が動いて手術を開始した瞬間、私は息子に武器を与える事になる。 そして息子を戦場に送り出し、同族と殺し合う事を認めてしまう事になるのだ。 (ロック・・・すまない。わしは・・・わしはお前を・・・) 愛しているからこそ、私はお前の運命を変えたくはないし、お前を失いたくない。 お前を只戦う為だけの戦闘マシーンにするなど、父親として絶対に許す事が出来ない。 私は苦渋の表情で項垂れ、手に持った手術器具を置こうとした。 「ライト博士」 私を呼ぶ声で顔を上げると、私の目の前には助手を務める娘が微笑んで立っていた。 辛い思いをしているのは一緒のはずなのに、どうしてお前は笑顔でいられるのか。 この子の妹であるお前だって、兄が死ぬかもしれない戦場に行くのを認めたくないだろうに。 「ロックも私も・・・ライト博士を信じています・・・ううん、私達だけじゃないわ。カットマン達だってきっとライト博士を信じて、助けてくれるのを待ってるはずです」 娘に言われて気付いた私は、息子の安心した寝顔を見詰めた。 そうだ、この子は・・・この子達は私を信じてくれているのだ。 息子として父親である私を信頼して、この子は私に辛い願いを申し出たのだ。 「ロック・・・」 今ここで私が挫けて、この子達の信頼の気持ちを裏切ってしまってどうする。 私を信頼してくれているからこそ、この子達は絶望の中に希望を感じ取ったのだ。 その希望を私が潰してしまっては、それこそ父親失格ではないか。 「ありがとう、ロール」 私は微笑んで礼を言うと、娘はニコッと可愛らしい笑顔で頷いた。 そして私は再び手術器具を手に取り、息子の柔らかい肌に静かに当てた。 私が決断した瞬間であり、遂に息子の運命を変える手術が始まったのだ。 「ロック・・・どんなに恐ろしい武器を持っても・・・どんなに姿が変わっても、ロックは私の大好きなロックだから・・・私、信じてるからね・・・」 痛みも苦しみも感じずに眠り続ける兄に向かって、妹が優しく話し掛ける。 彼女の言う通り、どんな事があろうとも、この子は私の愛する息子なのだ。 優しくて責任感が強くて、少し不器用だけども努力を惜しまない、私の誇るべき息子なのだ。 (・・・ロック、お前に力を与えよう・・・そして生まれ変わるのじゃ・・・) ならば私も父親として、この子を・・・この子達を信じて全力を尽くそう。 これから私が与えるこの力を、心優しいこの子なら、必ず正しい事に使ってくれる。 そして悪魔に奪われた皆の未来を取り戻し、無事に生きて帰ってきてくれると信じよう。 (家庭用ロボットから戦闘用ロボットに・・・!!) 柔らかく脆い人工皮膚の肌が、青く輝く超合金の強固な装甲に変わる。 力を求めた機械仕掛けの右腕が、強大な威力を持つ光の武器に変わる。 死の絶望に止まり掛けた人工心臓が、生きる希望に力強く鼓動する動力炉に変わる。 「終わった・・・」 何時間にも及ぶ手術を終えた私は、疲労感から大きく息を吐き、手術器具を置いた。 技術も希望も愛情も、この子に掛ける全てをこの手術に込めた。 もしかしたらこの手術こそが、神が私に与えた使命だったのかもしれない。 「・・・これが僕の・・・新しい体・・・」 長き眠りから目覚めた息子が、自分の体を見渡しながら呆然と呟く。 己の無力に泣いた少年は、強力な戦士となって生まれ変わった。 その新しい体に流れる凄まじい力を、この子は嬉しくも恐ろしくも感じ取っているのだろう。 「・・・そうじゃ、お前は生まれ変わったのじゃ・・・新しいお前の名は・・・」 私はこの時、愛情と希望を込めてその名前を付けたつもりだった。 だがその名前がこの後、長きに渡ってこの子を苦しめる事になるとは思いもしなかった。 そしてその名が時代を越えて受け継がれる伝説になろうとは、もちろん知る由もなかった。 「ロックマン!!」 |