マイ・リトル・ブラザー


第1章 はじめまして兄弟


プロローグ 誕生
・・・ここはどこだろう・・・なんだかとってもいい気持ちだ・・・
 (エネルギーチャージ完了!!動力炉始動します!!)
ドクン、ドクン・・・なんだろう、この音?
・・・そういえばボクって誰だっけ・・・?

カアアアアッ・・・

うわっ、まぶしい・・・!


気がつくと、彼は見知らぬところに寝かされていた。
天井の照明がまぶしくて、目をよく開けていられない。
それでもまわりを見渡すと、コードをたくさん接続したコンピューターが目に入った。
そんな彼の身体もたくさんのコードが接続されていて、思うように動けない。
彼の身体・・・顔は幼い少年のようだが、青いコートを着たようなボディに白いグローブとブーツ、コートから繋がったフードをかぶった頭と、人間の子供のようでそうでない感じだ。
 「おお・・・目覚めたぞ!」
 「わあ、やったあ!!」
いきなり彼の目の前に現れた白ヒゲの老人と少年。
二人は彼の身体中に接続されたコードをはずし、ようやく彼は動けるようになった。
 「?・・・?」
ここが何処なのか、そしてこの二人は誰なのか、もう何が何だかさっぱり分からない。
そんな彼に白ヒゲの老人が優しい笑顔で話しかけてきた。
 「気分はどうかな?アイスマン」
気分がどうこうというよりも、彼は『アイスマン』という言葉に反応した。
 「アイスマン・・・それ、ボクのこと?」
 「そうじゃよ。お前の名前はアイスマン・・・おお、あいさつを忘れておったの。はじめましてアイスマン。ワシはDr.ライト。お前の製作者、つまりお父さんじゃ」
 「Dr.ライト・・・お父さん・・・」
 「そうじゃ」
彼は起動したての電子頭脳で一生懸命理解しようとしていた。
目の前にいるのがライト博士、そしてここがライト博士の研究室であること。
自分は『アイスマン』という名前であり、ライト博士によって作られたロボットであること・・・
 「やあアイスマン」
そこへさっきの少年が笑顔で話しかけてきた。
 「僕はロック、君と同じロボットだよ。よろしくね!」
ロックと名乗った少年ロボット・・・アイスマンの電子頭脳にインプットされている情報から判断しても、この少年がロボットであることは疑わしいくらいだった。
肌色のボディに着こんだ服装、フサフサの黒い髪、幼さが残る顔立ち・・・どこからどう見ても人間の少年である。
それはまさにロボット工学の第一人者、ライト博士の高度な技術の証といえた。
 「僕は人間でいったら、君のお兄さんってところだね・・・」
ロックが自己紹介をしていると、ドタドタと廊下を走る音が聞こえてきた。
そして勢いよくドアが開く。
 「は、博士!新しいロボットができたって本当!?」
あわてて入ってきたのは、金髪の少女、頭にハサミを持った赤い顔のロボット、そして作業用ヘルメットをかぶった巨漢のロボットだった。
 「あ・・・ああ、この子じゃよ。アイスマンじゃ」
アイスマンを紹介するライト博士。
 「きゃー!カワイイ〜♪私はロール。よろしくね!」
ロールと名乗った少女は、思わずアイスマンに抱きついた。
金髪のポニーテールがよく似合うカワイイ少女だったが、この子もロックと同じロボットであることに気づくのは難しかった。
 「おおっ、コイツがオレの弟なのか!」
そこへ巨漢のロボットがロールからアイスマンを取り上げ、高く持ち上げる。
 「ガッツマンだ。お前の兄貴だぞ!!」
巨体のわりにガッツマンの目は優しく、アイスマンを見つめる目は愛情に満ちていた。
普段は物静かな頼れるナイスガイといった感じなのだが、この時ばかりはかなり興奮しているようだ。
 「ちょっとガッツマン!わりこまないでよ!」
 「ははは、スマン。嬉しくてつい・・・」
ロールの言葉を受けて、アイスマンを降ろすガッツマン。
そこへ今度は赤い顔のロボットがアイスマンの前に出てきた。
 「オイオイ、俺にも見せてくれよな!俺はカットマンってんだ。よろしくな!!」
カットマンは、その名の通り頭にハサミを装着したロボットだった。
体格的にはロックより少々大きいくらいで大差ないが、その赤い顔に丸い大きな目が可愛ささえ感じさせる。
性格的にははきはきとしゃべる江戸っ子的なところがあって、親しみやすいタイプといえた。
 「ちょ、ちょっと、みんな!」
ロックの注意もとどかず、もみくしゃにされるアイスマン。
どう対応していいか分からず、彼の電子頭脳はパニック寸前になっていた。
 「う・・・うえ・・・」
そしてその答えは、ある感情によって表現されようとしていた。
 「うわあああ〜〜〜ん!!!」
アイスマンは突然大声で泣き出した。
 「わわっ!なんだ?」
 「いきなり泣き出しちゃった!」
戸惑うロール達。
それを見たライト博士は珍しく大声で笑った。
 「ハッハッハ!どうやら大勢にかまわれてビックリしたようじゃの。まあ生まれたての子はそんなもんじゃ」
人間の赤ん坊も、生まれた時は大声で泣く。
それは赤ん坊が生きている証拠であり、ライト博士はそれをアイスマンに見ておかしかったのだろう。
しかしロボットのアイスマンがその行為をするということは、それだけロボットの感情が人間に近づいていることの証でもあり、まさにロボット工学の発展の賜物といえた。
 「・・・さて、これでアイスマンは我が家の一員になったわけじゃ・・・みんな、仲良くしてやってくれよ」
 「はい!!」
全員が気持ちよく返事をし、アイスマンを迎え入れる意思を示した。
 「よかったなガッツマン。これで末っ子卒業だ!」
カットマンはニヤニヤ笑いながらガッツマンに言った。
 「うう・・・この日をどれだけ待ちわびたか・・・うれしー!」
男泣きをかますガッツマンであったが、これにはわけがある。
ライト博士によって作られた人型ロボット、通称『ライトナンバーズ』の製作順は、ロック、ロール、カットマン、ガッツマンとなっている。
つまり一番長兄に見えるガッツマンが、逆に末っ子であったのだ。
人間の兄弟姉妹でもそうだが、やはり兄や姉には逆らいにくいというもの。
ガッツマンはずっと弟となるロボットが欲しくてたまらなかったようだ。
ちなみにロックの前に開発された人型ロボットが存在したことが後に判明するが、それはここでふれないでおこう。
 「ほれアイスマン、みんなにあいさつしなさい」
ライト博士に言われ、アイスマンは生まれて初めてあいさつをすることになった。
今度はあいさつする側に立ったので、ガチガチに緊張気味のようだ。
 「ア・・・アイスマンです・・・よろしく!!」


・・・こうしてアイスマンはライト一家の一員になったのだった。



ACT−1 ライトファミリー
DRN−005アイスマン・・・南極探査用に作られた寒冷地作業ロボット。
特殊武器“アイススラッシャー”を装備。
始動後しばらくテスト期間を置いた結果、何の支障もないことが確認された。
しかし、ボディが子供型であることに少々コンプレックスを抱いている傾向あり。
現在は『南極探査隊』の一員として南極ショーワ基地に赴任中・・・


アイスマンが南極へ行ってから数ヶ月が過ぎた頃・・・
ライト研究所の玄関のチャイムが鳴った。
 「はーい・・・」
玄関に出たロールは、本当にびっくりした。
 「ただいま!」
そこにいたのはアイスマンだったのだ。
 「わーアイスマンじゃない!お帰りなさい!!」
初対面時と同様、いきなりアイスマンに抱きつくロール。
 「それにしてもびっくりした。なんで連絡くれなかったのよ」
 「ハハハ、みんなを驚かそうと思って・・・」
アイスマンは仕事を終え、休暇をもらって久々に帰ってきたのだった。


久々の我が家、ライト研究所・・・
リビングルームでは、南極のみやげ話を熱心に語るアイスマンと、それに夢中で聞き入るロック達の姿があった。
 「・・・で、どうだった南極は?」
カットマンが興味津々に訪ねる。
 「うん!とっても楽しかったよ。ペンギンもオーロラも見れたし・・・」
 「オーロラ!いいなあ〜」
 「俺達も寒冷地用コーティングさえすれば行けるんだけどな〜」
ロック達がうらやましそうに言うので、アイスマンは少々自慢げのようだ。
南極での思い出を語るアイスマンは実に楽しそうな笑顔であった。
それを見たライト博士は嬉しそうに目を細める。
 「ほお、それは良かったのう・・・おお、そうじゃ。お前が南極に行ってる間に新しいロボットができたんじゃよ」
思いがけない言葉にアイスマンの目が輝く。
 「え!そうなの!?」
どうやらこの部屋にいなかったのは、ライト博士がアイスマンを驚かそうと思ってのことだったようだ。
 「ロック、二人を呼んできてくれんか」
 「はい」
ロックは部屋を出ると、二人のロボットを連れて戻ってきた。
その二人をライト博士が紹介する。
 「ボンバーマンじゃ」
ボンバーマンは丸々とした体格で、いかにもイタズラ小僧的な顔をしていた。
実際、会話においてもツッコミがうまく、カットマンあたりはよく突っ込まれているらしい。
といっても傷つけるようなツッコミではなく、まわりを笑わせるツッコミで、彼の行くところ笑いが絶えないようだ。
 「よろしくなアイスマン!!」
 「よろしく!!」
アイスマンはボンバーマンと握手をした。
 「こっちはファイヤーマン」
次に紹介をうけたファイヤーマンは、寡黙そうな青年といった感じだった。
炎を操るということで熱血漢のようにとられがちだが、彼は冷静で知性あふれる雰囲気が漂っていた。
言うなれば『燃えさかる炎』ではなく『静かに燃える炎』といったところか。
 「よろしく頼む」
ファイヤーマンともガッチリ握手をかわしたアイスマン。
 「これでアイスマンもお兄さんになったわけだね」
ロックの言葉を聞いて、ロールは何やら思いついたようである。
 「あ、そう言えばそうね・・・アンタ達、ちゃんとアイスマンを“お兄さん”と呼ばなくちゃダメよ!」
思いがけない提案にボンバーマンとファイヤーマンは驚いた。
 「うえっ!そうなのかよ〜」
 「ということはロールのことも“お姉さん”と呼ばなくてはならんのか?」
実はこれが狙いだった?
ロールはニヤリと笑うと、胸をはって自信たっぷりに答えた。
 「当然!!」
 「そんな〜」
ガックリとしょげ込むボンバーマンとファイヤーマン。
一同は笑いの輪に包まれた。
 「ハハハ、実はもう一人いるんじゃよ。アイスマン」
またまた思いがけない言葉が飛び出した。
 「え!だれだれ?」
もうアイスマンの興奮度はマックス状態である。
 「エレキマンといってな、今は仕事に出ておる。夕方には帰ってくるから、それまで待ってなさい」
エレキマンは原子力エネルギー電圧制御作業ロボット。
普段は原子力発電所で働いているとのことだった。
 「わ〜!楽しみだな!!」
楽しみを後に残し、アイスマンは再び家族とのだんらんに戻った。



ACT−2 出会いは兄弟ゲンカ
夕方の5時・・・仕事を終えたエレキマンが研究所に帰ってきた。
エレキマンは長身で、目つきが鋭い。
一見クールなように見えるが、どちらかというと気難しいタイプのような雰囲気が漂う。
中に入ろうとしたエレキマンだが、何かを感じて立ち止まった。
リビングルームから知らない誰かがのぞいている気配がしたのだ。
 「・・・そこでのぞいてるヤツ、出てこい・・・!」
その言葉にギクッと驚き、出てきたのはアイスマンであった。
 「へへ・・・」
恥ずかしそうにしながら、エレキマンを見つめるアイスマン。
一方のエレキマンは、何だこの小僧は?といった感じの鋭い目で見ている。
 「はじめましてエレキマン!ボクはアイスマン。君のお兄さんだよ!」
自己紹介をするアイスマン。
エレキマンはやや不快な表情を浮かべた。
 「兄・・・だと?」
 「そうさ!」
笑顔で答えるアイスマン。
 「・・・ふん、馬鹿馬鹿しい。ロボットに兄も弟もあるか!ようは性能の善し悪し・・・それだけだ!」
 「え?」
アイスマンは笑顔が驚き顔に変わった。
さらにエレキマンはきつい言葉を続ける。
 「・・・それにお前のような小僧を兄と呼ぶなんてオレのプライドにさわる・・・二度とオレの前でそんなことは言うな!」
まさか初対面でこんなことを言われるとは思ってなかったアイスマン。
 「そんな・・・ひどい、ひどいよぉ・・・」
すぐに涙目になり、大声で泣き出してしまった。
 「うっ・・・うわああ〜〜ん!!」
 「な、なんだよ・・・何も泣くことはないだろう」
あわててアイスマンをなだめようとするエレキマン。
しかしアイスマンは一向に泣きやまない。
そのうちエレキマンもイライラしてきて怒鳴ってしまった。
 「ええーい泣くな!!ガキじゃあるまいし!!」
その言葉を聞いて突然泣きやむアイスマン。
しかし今度は全身がブルブル震えている。
それもそのはず、子供っぽい外見にコンプレックスを抱いているアイスマンにとって“ガキ”は禁句だったのだ。
 「エレキマンの・・・バカ〜〜〜!!」
怒ったアイスマンはエレキマンを払いのけると、玄関を飛び出していってしまった。
 「あっ、オイ!!」
あわてて声をかけるがすでに遅く、アイスマンは外に出ていってしまった。
 「ハァ・・・なんなんだあの小僧は・・・」
エレキマンはため息をついた。
 「あ〜あ、泣かしちゃった・・・」
背後から突然聞こえた声に驚いて振り返るエレキマン。
そこにはロックとロールが立っていた。
 「ひどいよエレキマン。あんなこと言うなんて・・・」
 「そーよ!アイスマン、アナタと会うの楽しみにしてたのよ」
全てを聞いていたのだろう、ロックとロールはエレキマンを責める。
 「オレは本当のことを言ったまでだ」
全く反省する気がないエレキマン。
それを見てロックとロールは顔を見合わせてため息をつく。
 「・・・でも大丈夫かしら?」
 「?」
怪訝そうな表情のエレキマンに、ロックが説明する。
 「さっきニュースで言ってたんだ。なんかこの間逃げた脱獄犯がこの辺りに潜伏してる可能性があるんだって」
それを聞いたエレキマンもさすがにちょっと心配になってきたようだ。


夕方の6時・・・ライト研究所を飛び出していったアイスマンは、近くの公園のブランコで一人いじけていた。
 「エレキマンのバカ・・・エレキマンのバカ・・・」
子供達は皆帰ってしまって、公園はアイスマン以外誰もいない。
夕日が沈む下、アイスマンはまさしく独りであった。
それを公園脇の道路に停車した車からのぞく二人組がいた。
 「へっへっへ、あいつだ・・・」
ノッポの男がアイスマンを見てニヤリと笑う。
 「本気でやるんですかい兄貴?」
続いて小太りの方がノッポに訪ねる。
 「あったりまえよ!こんなチャンス、逃す手はねぇぜ・・・」
この二人、人相悪い悪党ヅラ、黒いジャンパーに黒ズボン、黒いベレー帽という黒ずくめの格好・・・どう見ても犯罪者である。
それもそのはず、ニュースで言っていた脱獄犯とはこの二人だったのだ。
“兄貴”と呼ばれたノッポがオーロ、小太りの方がプラタという。
以前、身代金目的で幼児誘拐事件を起こして逮捕された前科を持つ凶悪犯コンビだ。
脱獄して間もない今、今度は何をやらかそうというのか?
 「ま、俺にまかせときな」
車を出たオーロはニコニコ顔でアイスマンに近づいていく。
 「あー君君、ちょっといいかな?」
知らない男に声をかけられたアイスマンはキョトンとして聞き返した。
 「ボク?」
 「そうそう。君はライト博士のとこのロボットだね。博士に頼まれて持ってきたものがあるんだが、肝心の博士の家が分からないんだ。案内してもらえないかな?」
アイスマンは悩んだ。
ライト研究所まで案内するということは、自分も帰るということだ。
帰れば、さっきケンカしたばかりのエレキマンがいて気まずい。
でも困ってる人を無視するわけにはいかない・・・
 「うーん・・・いいよ」
疑うことを知らないアイスマンは仕方なく引き受けた。
 「ありがとう!じゃああそこで待ってる車に乗って」
オーロが指した方向には、車が待機して運転席のプラタが手を振っていた。
気乗りしないが、とにかく言われたとおり車に乗り込むアイスマン。
これがとんでもない事件になろうとは、まだ気づかなかった・・・



・・・第2章へ続く・・・


戻るよ!!


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