マイ・リトル・ブラザー


第2章 兄弟の絆


ACT−3 アイスマン誘拐事件
夜の8時・・・ライト研究所では全員でアイスマンの帰りを待っていた。
 「アイスマン、帰ってきませんね・・・」
 「ウム・・・」
ロックの言葉にため息をつきながら答えるライト博士。
よほど心配なのだろう。ロールがつくってくれた夕食も喉を通らず、ただコーヒーを飲んで気を落ち着かせようとしているようだ。
 「おいエレキマン、お前の責任だぞ。探してこいよ」
ボンバーマンがエレキマンを責める。が、彼はプイッとそっぽを向くだけだ。
 (ったく心配かけやがって・・・しかしオレもちょっと言い過ぎたかもしれんな・・・)
表情では冷静を装ってるエレキマンもさすがに心配なようである。
 「ええい、このまま待っててもしょうがねえ!みんなで探しにいこうぜ!!」
 「そうだね・・・よし行こう!!」
カットマンの提案にロックやファイヤーマン達もうなずく。
そして玄関に向かおうとした矢先、突然電話が鳴り響いた。

プルル、プルル・・・

アイスマンかもしれない・・・期待しながらロールは受話器をとった。
 「はいもしもし、こちらライト研究所・・・」
ライト博士は再びコーヒーをすする。
 「ええっ!?アイスマンはあずかった!?」
 「!!」
思わず口にしたコーヒーを吹き出すライト博士。
一同は一瞬にして衝撃につつまれた。
 「な・・・なに冗談言ってるのよ!人をからかわないでよね!」
ロールは信用できないといった口調で答えた。
それはロック達も同じ気持ちだったが、ニュースのこともある。
心は不安一色になってしまっていた。
ようやく落ち着いたライト博士が替わって受話器に出る。
 「ロールかわりなさい・・・もしもし」
 「へっへっへ、あんたがあのDr.ライトかい。お宅のお子さんはあずかってるぜ・・・いや、おロボットさんと言ったほうがいいかな?」
挑発的な言葉と同時にテレビ電話の画面に映し出された光景。
それは黒覆面をした謎の男と、拘束されてすっかり元気をなくしたアイスマンの姿だった。
 「アイスマン!!」
一同はようやく事態を理解した。
 「いいか、よく聞け!コイツを無事に返してほしかったら、明日までに10億用意してもらおうか!!」
 「10億だって!?」
あまりの法外な額にロック達は驚いた。
 「ひひひ・・・あんたロボット工学の権威なんだろ?あんたの作ったロボットは重宝されてるって話じゃねえか・・・もうけもかなりのもんなんだろ?だったらそれくらいの金は安いくらいじゃねえのかな?」
しかしこれは明らかに見当違いだった。
確かにライト博士の収入はかなりのものがある。
だがそれらの大半は平和活動のための資金や募金などに消えており、ライト博士の元にはほとんど残らない。
せいぜい生活資金やロボット製作費くらいのものだ。
払えるわけがない・・・ロック達はそう思っていたが、ライト博士は要求をのんだ。
 「・・・わかった。言うとおりにしよう」
 「ええっ!?」
ますます驚くロック達に対し、画面の覆面男はニヤリと笑みを浮かべる。
 「さすが物分かりがいい。明日、時間と場所を連絡するから、それまでおとなしくしていることだな・・・間違っても警察に言うんじゃねえぞ!わかったな!!」
プツッ・・・電話は切れた。
 「博士!10億なんて金ムチャですよ!!」
 「一体どうやって用意する気なんですか!?」
ファイヤーマンとガッツマンが抗議する。
 「トロフィーや盾がある。あれ全部だったらなんとかなるじゃろう」
ライト博士はたくさんのトロフィーや盾が収められたショーケースを見てつぶやいた。
それらを全て身代金代わりに渡そうというのだ。
 「そんな・・・あれは博士が今まで一生懸命努力して勝ち取ってきた勲章じゃないですか!!」
ロックの言うとおり、それらはライト博士の勲章であり誇りであった。
新人時代から現在に至るまで、国内や海外での様々なロボットコンテストで入賞し頂いた、決して金には換えられない価値のあるものばかりであった。
言うなればトーマス・ライトというロボット工学者の全てと言ってもいい。
それらを全て渡すということは、とても屈辱という言葉だけでかたづけられるものではないだろう。
しかしライト博士は違った。
 「アイスマンの命にはかえられんよ・・・あの子だけではない。お前たちの幸せのためならワシはいつだって喜んで全財産を投ずる覚悟じゃ・・・」
 「博士・・・」
人間ではなくロボットの自分達にこれほどまでの愛情をそそいでくれる。
ロック達はライト博士への感謝と申し訳なさから言葉を失った。
 「ちくしょう・・・ちくしょう!!」
テーブルに拳を叩きつけるカットマン。
 「もとはといえばエレキマン!!お前が・・・」
エレキマンに食ってかかろうとするボンバーマンだったが・・・
 「あ・・・あれ?エレキマンがいねぇぞ・・・?」
本当にエレキマンの姿はどこにもなかった。
彼は一体どこへいったのか?



ACT−4 ボクのヒーロー
・・・ここは湾岸のとある倉庫。
誰もいないはずの中に明かりが見られ、何やら話し声が聞こえてくる。
 「くっくっく、これでよし」
オーロは携帯電話のスイッチを切って覆面を脱いだ。
 「しかし本当に大丈夫なんですかい?コイツはあくまでロボットですぜ。人間のガキみたいにちゃんと金出すとは思えねぇんですが・・・」
オーロの隣りに特殊ロープで拘束されたアイスマンを見てプラタは心配そうに訪ねた。
 「へっ、心配いらねぇよ。あのライトって科学者は子供がいねえ・・・だから自分が作ったロボットを本当の子供みてーにかわいがってるのさ。もちろんコイツも例外じゃねえ」
コツンとアイスマンの頭を軽く叩くオーロ。
そのショックで緊張が解けたのかアイスマンは大声で泣き出してしまった。
 「う・・・うえ・・・うわああああ〜〜〜〜ん!!!」
あまりの大声に悪党達は耳をふさぐ。
 「だ〜!!うるせぇ!!ぎゃーぎゃー泣くな!!」
オーロはアイスマンを怒鳴りつけると、その口にガムテープを貼り付けてしゃべれないようにした。
 「ムグ・・・ムググ!!」
 「・・・とにかくだ。奴は必ず金を持ってくる。明日になりゃ俺達は大金持ちよ!」
 「大金持ち!!とうとう夢がかなうんすねぇ!!」
 「ああ、一生遊んでくらせるぜ!!南国の小島でも買って豪邸かまえて・・・」
 「好きなもの食べ放題!!オマケに老後もばっちし保障!!」
途方もない夢だ・・・
 「ギャーハッハッハッハ!!!」
下品な声で大笑いする悪党達。
 (ボクのせいだ・・・ボクのせいで博士が・・・誰か・・・誰か助けて・・・!)
アイスマンは目をつぶり心の中で祈った。
その時・・・

 「南国・・・?豪邸・・・?あきれた妄想だな」

 「うい!?」
ビクッ!!どこからともなく聞こえてきた声に悪党達は驚愕した。
 「お前ら犯罪者の行く先は刑務所のみ・・・老後までばっちりとな・・・!」
 「だっ・・・誰だ!?出てこい!!」
その言葉を受けるように入り口の闇から現れる謎の影。
月光がその姿を徐々に明らかにしていく。
 「なっ、何者だキサマ!?」
 「DRN−008・・・エレキマン・・・!」
現れたのはエレキマンだ!!
 「ムグムムグ!(エレキマン!)」
 「ロ・・・ロボット!?」
 「ど、どうしてここが!?」
 「携帯電話を使ったのは失敗だったな。電波を逆探知してきたのさ」
さすが電気のスペシャリストである。
 「ち、ちくしょう!!ということはライトの奴、金をしぶりやがったのか!!」
 「・・・違うね。これはオレの独断行動だ・・・貴様らのような悪党はオレのプライドがゆるせんのでね」
誇り高いエレキマンらしい言動だ。
 「それに・・・」
エレキマンは拘束されているアイスマンの方に目を向けた。
 「そいつは一応シリーズ(兄弟)なんでな・・・」
口元に軽く笑みを浮かべる彼の目は優しかった。
口では厳しいことを言っていても、いざという時は真っ先に助けに来てくれる・・・
アイスマンはこの時彼の本心を見た気がした。
 「ううっ・・・泣かせる話だな〜」
 「バカッ!なに感動してやがるんだ!!」
感動して涙を流すプラタをどやしつけるオーロ。
そしてマシンガンを手に取り、エレキマンに向かってかまえる。
 「へへっ、ここを見つけたのは見事だがよう・・・飛んで火にいるはなんとやらだな。これが目に入らねえのか!!」
 「・・・・・・」
マシンガンをかまえる悪党二人に対し、微動だにしないエレキマン。
 (クヒヒ、びびってますぜ兄貴!)
 (当たり前だ!こちとらマシンガン二丁だぞ!!)
浮かれる悪党達だったが、次のエレキマンの言葉は予想していなかった。
 「・・・撃てよ」
 「えっ??」
二人は一瞬何を言われたのか理解できなかった。
 「撃ちたきゃ撃てと言ったんだ。ちゃんとここを狙うんだな」
親指でトントンと胸を指すエレキマン。
ようやく理解した悪党達は、怒りもあらわにマシンガンの引き金に指をかけた。
 「〜〜〜ロボットのくせに生意気な!!」
 「バカめ!!ハチの巣になりやが・・・」
撃とうとした瞬間、エレキマンは瞬時にして消え、オーロの目の前に現れた。
 「れ??」
 「・・・遅い!」
エレキマンはオーロのマシンガンをつかむと、そこから電撃をくらわせた。

バリバリバリッ!!

 「ぎょええ〜!!」
感電したオーロは直立状態のまま倒れ込んだ。
髪の毛は完全に逆立ち、オマケに失禁までやらかして何とも情けない格好だ。
 「あへ・・・あへ・・・」
 「あっ兄貴!」
 「安心しろ。死なない程度に電圧は弱めておいた・・・次はお前の番か?」
オーロを介抱しようとするプラタをにらみつけるエレキマン。
 「ひっ・・・ひええっ・・・ひゃあああ〜!!」
プラタは恐怖のあまりマシンガンを放り捨てて逃げ出した。
 「バッ、バカ!俺を置いてくな!!」
そのあとを追ってオーロも慌てて逃げていく。
 「小悪党が・・・!」
エレキマンは逃げていく悪党達を尻目にアイスマンのもとへ歩み寄った。
そしてアイスマンの口に貼られていたガムテープをはがす。
 「プハッ!・・・エ、エレキマン・・・」
 「大丈夫か?」
ロープを解くエレキマンに対し、何か言いたげなアイスマン。
 「あ・・・あの、その・・・」
 「ったくこれだから子供はイヤなんだ!ろくでもないことやりやがって・・・!」
ロープを解き終わり立ち上がる両者。
だがエレキマンは背中を向け、アイスマンと視線を合わせようとしない。
 「ごめん・・・でも、でも・・・ホントにありがとう」
思いがけない言葉にエレキマンは振り向いた。
そこには感謝の気持ちを笑顔で表したアイスマンがいた。
視線が思わず合ってしまい、エレキマンは頬を赤らめてそっぽを向く。
 「バッ・・・バカ!勘違いするな!オレは悪党が許せなかっただけだ!!」
照れるエレキマンを見てクスッと微笑むアイスマン。
意地っ張りなんだから・・・本当は心配だったんだろう?


一方、逃げた悪党達は別の倉庫に逃げ込み、何か巨大な影の前に立っていた。
 「あ・・・兄貴!本当にやるんですか?」
目の前にあるもの・・・それは巨大メカであった。
全長10メートルはあるだろう。ハンドにドリル、ハンマーなど6本の腕を持ち、戦車のようなキャタピラを持つ土木作業用メカのようだ。
 「あったりまえだ!!あそこまでコケにされてだまってられっかよ!!」
オーロの目は完全に血走っており、正気を欠いてるように思えた。
そして二人はコックピットに乗り込み、動力スイッチを入れる。
 「へっへっへ、いくら奴でもコイツにゃかなうめぇ・・・いくぜェェ!!!」



ACT−5 戦いは誰のために
その頃、エレキマンとアイスマンはまさに帰ろうとしていたところだった。
 「さあ、みんなが心配している。帰るぞ」
 「うん!」
しかし何やら妙な音が聞こえてくる。
ガガガガ・・・
 「なんだ?」
次の瞬間!

ドゴーーーーーーーン!!!

倉庫の壁を突き破って巨大メカが現れたのだ。
 「おい電気野郎!!さっきはよくもやってくれたな!!コイツでたっぷりお返しさせてもらうぜ!!」
エレキマン達の方を向いた巨大メカからオーロの声が響き渡った。
どうやらここは通さないつもりらしい。
 「・・・アイスマン、お前はさっさと逃げな」
 「えっ?」
 「オレはコイツを始末してから行く」
 「そんな!ボクも手伝うよ!」
アイスマンにも意地がある。一人だけ逃げるなんてことはできなかった。
だがそんなアイスマンをエレキマンは鋭い目でにらみつけて怒鳴る。
 「子供は黙って大人の言うことを聞け!お前にうろちょろされると迷惑なんだよ!!」
 「ううっ・・・」
アイスマンは反論もできず、涙目でくやしさをこらえることしかできなかった。
一方のエレキマンはゆっくりとアイスマンのそばから離れ、巨大メカを誘導していく。
 「・・・フン、そんなポンコツ引っ張り出してきてオレに勝てると思ってるのか?」
 「ひひひっ、そいつはやってみてのお楽しみよ!くらえっ!!」
巨大メカはハンマーを振り上げ、エレキマンめがけて振り落としてきた。
それをジャンプで余裕でかわすエレキマン。
さっきまで彼がいた所は今の一撃で大きな穴が開いていた。
 「一撃の威力はたいしたものだ・・・あんなの喰らったらひとたまりもないな」
エレキマンの右手に電気が走る・・・
 「だがこれは耐えきれまい!!サンダービーム!!」
手のひらから発せられた高電圧の電撃が空を裂き獲物に牙をむく!!

ズビビィィィィ!!!

電撃をまともに喰らう巨大メカ。
勝利を確信して着地するエレキマンだったが・・・
 「な・・・?」
なんと巨大メカは無傷!しかも休む間もなく襲ってきたではないか!!
 「バカな・・・オレのサンダービームが効かない!?」
 「ヒャーハッハッハ!!コイツにゃ絶縁コーティングをほどこしてあんのよ!!テメーの電気なんざ屁でもねーぜ!!」
巨大メカの攻撃はどんどん勢いを増していく。
それを持ち前のスピードでかわすエレキマンだったが、サンダービームが効かない以上、もはや余裕はなくなっていた。
 「ええーい、すばしっこい奴め!・・・そうだ・・・」
何を思ったか巨大メカはエレキマンへの攻撃をやめて別方向へと向きを変えた。
 「どうしたんだ・・・うっ!まさか!?」
悪い予感が的中した。その先にはアイスマンがいたのだ!
エレキマンの子供扱いにショックを受けていじけていたのか、巨大メカが突進してくるのに気づいていない。
 「アイスマン!!」
エレキマンの叫びに我に返るアイスマン。
しかし気づいたときにはすでに遅く、巨大メカがすでに目の前に迫っている!!
 「うわああっ!!」

ガッシャーーーン!!!

もうダメかと思い目を閉じるアイスマンだったが、なんか様子がおかしい。
 「?」
不思議に思って目を開けると・・・そこには巨大メカの突進を必死で抑えるエレキマンの姿があった。
 「エ・・・エレキマン!?」
 「バッ・・・バカ野郎!さっさと逃げろと言っただろ!!」
 「イーヒッヒッヒ!!思ったとおりだ!!」
 「さっ、さすが兄貴!!」
必死なエレキマンをあざ笑うかのような悪党達。
大きいだけにそのパワーは凄まじく、エレキマンはどんどん後退していく。
 「うぐぐ・・・!」
このまま押し負けてはアイスマンもろとも壁に叩きつけられてしまう。
しかしこのまま終わらせる悪党ではなかった。
 「うっ!」
突進を抑えるのに集中していてハンドが近づいてきているのに気がつかなかったのだ。
その巨大な手でつかまれたエレキマンは全く身動きがとれなくなってしまった。
 「ぐっ・・・ぐわあああっ!!」
 「エレキマン!!」
 「へへへっ、つかまえた〜」
そこから地獄の苦しみが待っていた。
巨大メカはつかんだエレキマンをそのまま握りつぶそうとしたのだ。

メキメキメキッ!!

 「ぐわあああああああ〜っ!!!」
全身がきしみ、悲痛な叫び声をあげるエレキマン。
 「ヒーヒッヒッヒ!!苦しめ!!苦しめぇ〜!!」
苦しむエレキマンを見て悪党達は歓喜の叫び声をあげる。
 「ああっ!!」
アイスマンは居ても立ってもいられなくなって、巨大メカに向かって叫んだ。
 「やめろおぉぉっ!!」
その声に動きを止める巨大メカ。
 「それ以上エレキマンを傷つけたら許さないぞ!!ボクがお前をやっつけてやる!!」
 「なにぃ?お前みたいなガキが俺達を倒す?笑わせるな!!」
必死でにらみつけるアイスマンだが、悪党達はそれを全く相手にせず高笑い。
 「くっ・・・!」
その笑い声を聞いて悔しがるアイスマン。
 「よ・・・よせアイスマン・・・」
そこへ握られているエレキマンが、力のない声でアイスマンを止めようとした。
 「エレキマン!」
 「お前が勝てる相手じゃない・・・ここはオレにまかせて逃げろ・・・!」
強がりなのか、アイスマンをまだ子供扱いしているのか、それとも心配なのか分からないが、いずれにしても今のエレキマンでは勝ち目はない。
それにアイスマンも逃げろと言われて逃げるほどヤワな性格ではなかった。
 「ひひ・・・またしてもグッドアイデア♪」
 「え?今度はなんですかい、兄貴?」
その様子を見ていた悪党達は、何やらまた悪知恵を思いついたらしい。
 「オイ電気野郎!オメーにトドメをさすのは後だ!!死ぬよりつらい苦しみを味わわせてやる!!」
そう言うと巨大メカはエレキマンを放し、エレキマンは地面に落下した。
 「ぐ・・・ぐぐ・・・」
全身の激痛で思うように動けないエレキマン。
それでも必死に敵を見据えようとすると・・・
巨大メカはアイスマンの方を向き、彼に向かってゆっくり迫っているではないか。
 「・・・そーいや、お前はもう殺っちまってもいいんだよな・・・何も生きたまま返すとは言ってねーしなあ!!」
 「うう・・・」
後ずさりするアイスマン。
この時、エレキマンはようやく敵の言った意味が分かった。
『死ぬよりつらい苦しみ』とは、エレキマンの見ている前でアイスマンを破壊することだったのだ。
 「や・・・やめろ!貴様らの相手はこのオレだ!!そいつに手出しをするな!!」
必死に叫ぶエレキマンだったが、もはや敵は聞く耳持たず、どんどんアイスマンに迫っていく。
 「アイスマン、逃げろ!!」
今度はアイスマンに向かって叫ぶ。
エレキマンはアイスマンに勝ち目がないと思い込んでいるのだ。
 「・・・・・・」
本心を言えば、アイスマンは恐怖で今にでも逃げ出したかった。
しかし、首を横に振ってその気持ちを打ち消すと、思いっきり叫び返した。
 「いやだっ!!」
そして巨大メカをにらみつけ、もう一度叫ぶ。
 「ボクはDRN−005アイスマンだ!!逃げるわけにはいかない!!」
ライトナンバーズとしての誇りが逃げることを許さないのだろう。
エレキマンはこの時、アイスマンに抱いていた偏見が誤っていたことを悟った。
アイスマンのような小さなロボットでも、自分と同じくプライドを持っているのだ。
 「それに・・・お兄ちゃんが弟を見捨てて逃げるなんてできないよ・・・」
エレキマンに向かって優しく微笑みかけるアイスマン。
それがアイスマンの正直な気持ちだったのだろう。
先ほどはアイスマンがエレキマンの目を見て本心を悟ったが、今度はエレキマンがアイスマンの本心を悟ることになった。
 「バッ・・・バカ野郎・・・!」
胸が熱くなり、思わず涙ぐみそうになるエレキマンだったが、それを必死でこらえた。
 「へっへっへ、泣かせるねぇ・・・でもよ、もう後がないぞぉ・・・」
悪党の言う通り、アイスマンは壁際に追いつめられてしまった。
 「これで・・・終わりだっ!!」
巨大メカはハンマーを思いっきり振り上げると、アイスマンに向かって振り下ろす!

ドゴォォォン・・・

ハンマーは無情にもアイスマンを押しつぶしてしまった。
 「アイスマーーーン!!」
エレキマンの悲痛な声だけがむなしく響く。
 (なんてことだ・・・オレは・・・オレはアイツ一人さえ救うことができなかった・・・)
悲しみと自分の無力さに対する怒りで、身体の震えが止まらない。
 (アイツを助けるつもりが・・・アイツに助けられた・・・)
うつむくエレキマン。
そして彼の目には光るものが・・・今度ばかりは抑えることができなかった。
ポタッポタッ・・・
その時、急に悪党達の驚く声が聞こえ、エレキマンはハッとなってそちらを向いた。
 「ゲ・・・ゲゲ?」
アイスマンをつぶしたはずのハンマーがフラフラ動いている。
そしてハンマーが浮き上がった。
 「!」
エレキマンの心に『希望』の二文字がよぎる。
ググググ・・・少しずつ浮き上がるハンマー。
そしてその下には小さな青いロボットの姿が・・・
 「アイスマン!?」
なんとアイスマンはつぶれていなかった!
 「ば・・・馬鹿な・・・」
信じられないといった表情の悪党達。
それはエレキマンも同様だった。
 「これくらいでぇ・・・つぶされる・・・かあああああ!!!」
アイスマンはそのままハンマーを持って振り回した。
そしてそのまま巨大メカを倉庫の壁に叩きつける。
 「ぎゃん!!」
思ってもみない反撃に巨大メカは大ダメージ!
 (な・・・なんてパワーだ・・・!)
小さい身体に秘めた凄まじいパワー・・・
さすがのエレキマンも驚きを隠せない。
 「くそっ!ガキのくせになんてバカ力だ!!突進で押しつぶしてやる!!」
巨大メカは体勢を立て直すと、フルスピードでアイスマンに突進してきた。
しかしアイスマンは避けようとしない。
よく見るとアイスマンの右手が青白い光を帯びている。
 「アイススラッシャー!!」
青白き冷気の矢が放たれ、巨大メカに命中する。
 「のおおおおおっ!?」

ピキピキ・・・カキィィィン!!

巨大メカは氷漬けとなり、全く身動きがとれなくなった。
 「あああ、兄貴・・・つつ、冷たい・・・ですう・・・」
 「こここ、凍え死ぬうううう・・・」
コックピットにまで伝わった冷気で内部は氷の世界と化し、悪党達はガチガチに震え上がった。
その間にアイスマンはエレキマンの元に駆け寄った。
 「エレキマーン!!」
当のエレキマンはアイスマンのパワーに驚いて呆然としていたのだが。
 「大丈夫かい?」
その言葉を聞いてやっと我に返ったエレキマン。
 「あ・・・ああ・・・」
 「そう・・・よかっ・・・た・・・」
安心したのもつかの間、いきなり倒れ込むアイスマン。
エレキマンはあわてて受け止める。
 「オ、オイ!しっかりしろ!!」
 「ハハハ・・・さっきのでエネルギーを使い果たしちゃったみたい・・・」
あのハンマーを持ち上げた時にエネルギーを大量消費してしまったのだ。
それでもエレキマンに心配をかけまいと、アイスマンは笑顔をつくる。
その笑顔にエレキマンは思わず見とれた。
 「アイスマン・・・本当にすま・・・」
しかしエレキマンは途中で口ごもった。
もはや頑固といってもいいそのプライドが謝ることを許さなかったのだ。

ゴゴゴゴ・・・

その時、エレキマンの目に揺れ動く巨大な影がうつった。
 「ア、アイスマン!後ろだ!!」
 「え?」
エレキマンの言葉に後ろを振り返るアイスマン。

ガッシャーーン!!

なんと巨大メカは氷を砕き、再び動き出したではないか!
 「くっくっく・・・まだ動力系は死んでなかったみてーだな」
最大のピンチ!!



・・・第3章へ続く・・・


戻るぞ!!


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