ひとりじゃない
Stage 0
Command : Destruction Master : Secret 破壊せよ!!破壊せよ!!全てを破壊せよ!! マスターの野望を叶える為に、全てを破壊せよ!! マスターの野望を妨げる障害は、全て破壊せよ!! マスターに歯向かう敵は、全て破壊せよ!! 破壊せよ!!破壊せよ!!全てを破壊せよ!! (・・・恐ろしい・・・何という恐ろしい代物なのじゃ・・・) ライト研究所のメンテナンスルームにて、ライト博士はコンピューターと向かい合っていた。 冷や汗が流れるその顔は恐怖に青ざめ、ゴクリと生唾を飲み込む。 彼がコンピューターで解析しているのは、「W」の文字が刻まれた小さなICチップだった。 だがその小さなチップに入力されたプログラムは、大きすぎる程の恐怖に満ちていたのだ。 (ロボットの電子頭脳を洗脳して、感情や意志、記憶といったプログラムを完全に封じ込める。そして「マスター」と呼ばれる特定者の命令のみに従う忠実な操り人形に・・・全てを破壊する悪魔の破壊兵器に改造してしまう・・・これは“心”を持つロボットへの・・・ロボットに支えられた現代社会への挑戦状じゃ!!) ライト博士は落ち着こうと息を大きく吐き出し、後ろを振り向いた。 トクン・・・トクン・・・トクン・・・トクン・・・ 8つのメンテナンスベッドのうち、6つのベッドの上に6体の人型ロボットの姿が確認できる。 カットマン、ガッツマン、アイスマン、ボンバーマン、ファイヤーマン、エレキマン・・・ライト博士が開発したライトナンバーズの優秀な工業用ロボット達であり、愛する大切な我が子達だ。 六人ともボディは痛々しい程に激しく負傷し、全身の至る所にコードを接続されて、まるで死人の様に静かに眠り続けている。 そして彼らの動力炉が発する命の鼓動音が、静寂な空間にリズミカルに響き渡る。 (この子達は・・・こんな恐ろしい物を組み込まれて・・・) カットマン達は何者かにこの悪のチップを組み込まれ、凶暴な破壊兵器に変えられてしまった。 そしてその強大な力を以て都市を壊滅状態に追い込み、人々を恐怖と絶望に陥れた。 しかし同じライトナンバーズである家庭用ロボットのロックが、彼らを止める為に戦闘用ロボットへの改造を志願し、ロックマンとなって兄弟達と激しい戦いを繰り広げた。 そして激戦の末にロックマンが勝利し、カットマン達を回収してライト研究所に連れ帰った。 六人とも機能停止は免れたものの、ボディの外傷だけでなく洗脳プログラムを強制的にインストールされた事による精神的なダメージも大きく、悪のチップを取り除いて洗脳プログラムをアンインストールした今も、スリープモードのまま眠り続けているのである。 「・・・すまない。材料さえ手に入れば、すぐにでも修理してあげたいんじゃが・・・」 ライト博士が謝っても、深い眠りに入っているカットマン達は答えない。 都市の壊滅によって物資の入手が困難になり、彼らの修理に必要な材料が不足しているのだ。 傷付いた我が子達が目の前にいるのに、謝る事しか出来ない自分が親として情けなかった。 (W・・・まさか奴が・・・?いや、いくら奴でもこんな事をする筈が・・・) 悪のチップを手に取り、刻まれた「W」の文字を睨み付けるライト博士。 人間とロボットの信頼関係を破壊しようとしただけでなく、平和に暮らしていた我が子達の運命を大きく狂わせ、辛く苦しめたこの悪魔の発明品に怒り、憎しみさえ覚えた。 同時にそれを作った人物が、自分のよく知っている男かもしれないと思うと、その疑いが間違いであって欲しいとも願った。 「ライト博士、夕食の用意が出来ましたよ」 「おお、ロール。ありがとう」 夕食の用意を済ませたロールが入室すると、ライト博士は普段の優しい顔に戻った。 そしてロールの手料理が並んだ食卓に着くと、今夜も二人だけの寂しい時間が流れた。 「・・・いつまでこんな寂しいご飯が続くんでしょうね・・・」 エネルギー缶のストローから口を放し、ロールが悲しそうに呟く。 「おいおい、わしと二人きりの食事がそんなに嫌なのか?」 「そ、そうじゃないですけど・・・いつもみんな一緒だったから・・・」 ライト博士が苦笑しながら聞くと、ロールは慌てて弁解した。 そう言うライト博士も箸がなかなか進まず、料理が殆ど減っていない。 ついこの前までは、この食卓には何時もロックの姿があった。 カットマン達も勤務明けや休日の時は一緒に食卓を囲んで、毎日が楽しい時間だったのだ。 当たり前だった日々の幸せが失われた今、初めてその有難さが分かる。 「もう少しの辛抱じゃよ。カットマン達も戻ってきたじゃないか。この事件が解決すれば、また皆一緒に楽しく食事出来るさ・・・」 「そうですね・・・」 まだ寂しさは消えないものの、ライト博士の励ましに微笑み返すロール。 そして兄を想う妹としては、やはり戦場にいるロックマンの安否が気になった。 「ロックは・・・大丈夫かしら?」 「なあに、心配いらんよ。ロックマンはもうすぐ帰ってくる。さっき、犯人の基地の第二防衛ラインを突破したと連絡をくれ・・・」 ビーッ!!ビーッ!!ビーッ!!ビーッ!!ビーッ!!・・・ 「きゃあっ!」 「何事じゃ!?」 突然鳴り響いた警告音に驚き、急いでメンテナンスルームに向かうライト博士とロール。 そしてコンピューターを見ると、モニターが危機を示す赤の点滅を繰り返していた。 「ロックマンからの緊急信号!!」 「ええっ!?」 ロックマンが危機的状態にある事を知り、二人の不安が一気に高まる。 「ロックマン!!どうしたんじゃ!?」 「ロック!!大丈夫!?・・・ロック!!」 鳴り止まない警告音が響く中、通信機でロックマンに呼び掛ける二人。 『・・・ライト・・・博士・・・ロール・・・ちゃん・・・』 呼び掛けに答えたロックマンの声で、一先ず彼の生存は確認できた。 だがその声はとても苦しげで、今にも消えてしまいそうな程にか細かった。 更に続けて聞こえてきた彼の声に、ライト博士もロールも思わず我が耳を疑ってしまった。 『・・・ギギ・・・ギ・・・マスター・・・ドクターワイリー・・・』 それはロックマンの声に間違いなかったが、聞き慣れ親しんだ彼の声には程遠かった。 抑揚が全く無く、感情も意志も感じさせない、まるで機械の様な無機的な声だった。 「ロック!?ドクターワイリーって何よ!?何があったの!?」 「・・・Dr.ワイリー・・・じゃと・・・」 ロールがロックマンに必死に呼び掛ける傍らで、ライト博士の表情がみるみる強張っていく。 それもそのはず、信じていた気持を裏切られ、疑いが確信に変わってしまったからだ。 ビーッ!!ビーッ!!ビーッ!!ビーッ!!ビーッ!!・・・ 「これは・・・!」 警告音がますます大きくなり、ロックマンのボディの危険箇所がモニターにピックアップされる。 その危険箇所とは頭部、それも電子頭脳だった。 ロボットの全機能の中枢であり、感情や意志、記憶といった“心”をプログラミングされている。 その意味では心臓部である動力炉と並び、いやそれ以上の最重要部分だ。 WWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWW・・・ 悪のチップと同じ「W」の文字が、モニター画面を恐ろしい速さで覆っていく。 「ロックマンの電子頭脳に洗脳プログラムが・・・このままではカットマン達と同じ事に・・・!!」 「そんな!!ロックが・・・」 止まらない「W」の進行を目の当たりにして、二人の不安が絶望に変わる。 カットマン達が悪のチップを組み込まれて暴走を始めた時も、今回と全く同じ状況だったのだ。 つまりロックマンが悪のチップを組み込まれ、洗脳されている最中だという事に他ならない。 そして「W」が完全にモニター画面を覆った時、ロックマンの洗脳が完了した事を意味するのだ。 「ロック・・・!!ロック、しっかりして!!負けちゃダメ!!」 ロールが涙ぐみながら必死に呼び掛けても、ロックマンからの応答は無い。 代わりに追い打ちを掛けるが如く、無情にも通信が途絶えたノイズが警告音と共に響き渡った。 「いや・・・ロック・・・お願い、返事をして・・・」 絶望が頂点に達し、その場に泣き崩れるロール。 (ワイリー・・・やはりお前の仕業なのか・・・お前はロックまで奪って、悪魔の破壊兵器にしてしまおうと言うのか!!) かつての親友が犯人であると確信したライト博士は、怒りと憎しみに震え、拳を握り締めた。 だがこの状況をどうする事も出来ず、ロックマンの電子頭脳が洗脳プログラムに支配されていくのを黙って見ている事しか出来なかった。 そしてモニター画面の最後の一行、最後の6文字まで「W」が進行したその時だった。 WWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWW C G I B F E 最後の6文字のみ「W」ではなく、別の文字が表示されたのだ。 まるで「W」の進行を食い止め、ロックマンを悪の洗脳から守るかの様に。 「これは・・・一体・・・?」 呆気にとられたライト博士の声を聞いて、ロールもふと顔を上げた。 「C・・・G、I、B、F、E・・・」 ライト博士とロールはモニターを見て、その6文字を何度も読み返した。 そして二人とも同時に、その6文字がある事を示している事に気が付いた。 「まさか・・・」 信じられないが信じたいという思いを抱きながら、二人は後ろを振り向いた。 メンテナンスベッドの上では、カットマン達六人が静かに眠ったまま、何の反応も示さなかった。 |