ひとりじゃない
Stage 1
ビーッ!!ビーッ!!ビーッ!!ビーッ!!ビーッ!!・・・ 『イエロー警報!!侵入者が第二防衛ラインを突破!!総員、直ちに第三防衛ラインに出動せよ!!侵入者を発見次第に破壊せよ!!』 巨大要塞「ツイン・ピラミッド」の最深部において、警告音とアナウンスが響き渡る。 そして通路を走り、空を飛び、けたたましく要塞内を移動する異形の者達。 元々は文明社会に貢献する為、人々の生活を助ける為に造られたが、今は悪の洗脳を施されて凶暴な破壊兵器と化した作業用ロボット達だ。 バシュッ!! 「ガッ・・・!!」 閃光に頭部を貫かれ、機能を停止して倒れるクレイジーレイジー。 それを見て足を止めたロボット達の前に現れたのは、一人の小さな少年だった。 しかし彼は人間ではない、青色に輝くボディとヘルメットをした少年型の戦闘用ロボットだ。 清らかな青い瞳で凛々しく前を見据え、バスターに変形した右腕を構えている。 「ギギッ!シンニュウシャ、ハッケン!」 「シンニュウシャ・・・ロックマン!!」 侵入者の存在を確認したロボット達も、ロックマンに向かって身構える。 「ハカイスル!!」 3体のピッケルマンが先陣を切り、鋭いピッケルを振り上げて飛び掛かった。 対するロックマンは慌てる事無く、迫り来る3体の胸部にバスターの標準を定める。 「ロック・・・バスター!!」 ドォン!!ドォン!!ドォン!! バスターの銃口が光り輝き、発射された三本の閃光が、3体のピッケルマンの胸部を貫いた。 動力炉を破壊されたピッケルマン達は爆発四散し、凶器が獲物まで達する事無く落下する。 「ブッ!ブッ!ブ〜ッ!」 マンブーが爆発に紛れて飛来し、上空からロックマンに拡散弾を浴びせた。 しかしロックマンの強固な装甲の前には、ほんの少し焦げ目が付く程度の小さなダメージだ。 そして攻撃した後の僅かな隙を狙われ、マンブーは呆気なく撃墜されてしまった。 「・・・我が最高傑作イエローデビル・・・そしてCWU−01Pまで敗れるとはな・・・!!」 メットールのカメラアイを通じ、暗闇の大型モニターでその戦闘を眺める一人の男。 彼は狂気に目を輝かせ、ロボット達と激戦を繰り広げるロックマンだけを見詰めている。 「ロックマン・・・我が宿敵トーマス=ライトが造った戦闘用ロボット。家庭用ロボットを改造した間に合わせの戦闘用・・・しかし攻撃力、防御力、機動力・・・どれも文句無い性能じゃ・・・」 ドガガガガガガガガガガガガガガガッ!! スナイパージョーとブラスターの銃撃を素早く走って避け、高くジャンプして反撃するロックマン。 「・・・何より注目すべきは!!」 着地したロックマンの背後から、キラーボムが猛スピードで飛来する。 「キィーーーン!!」 (キラーボム・・・爆薬を大量に内蔵してるから、下手に攻撃したら大爆発だ!) 過去の戦闘における経験も踏まえ、ロックマンの電子頭脳が冷静に最善策を考え出す。 「バスターチェンジ!!アイススラッシャー!!」 ピキーーーーーン・・・!! ブルー&スカイブルーだったロックマンのボディーカラーが、マリンブルー&ホワイトに変わる。 そして次の瞬間、キラーボムは冷気の矢に射抜かれ、氷の塊となって床に落下していた。 「倒したロボットから武器チップを得る事で、そのロボットと同じ武器を使えるようになる能力・・・武器トレースシステム!!」 グレー&ホワイトに変わったロックマンが、バスターの銃口から鋏状のカッターを取り出す。 「ローリングカッター!!」 シュバッ!! 「ジ・・・」 「ジィッ!」 ロックマンの投げたカッターが高速回転し、くっつきスージーの群を次々と切り裂く。 そしてブーメランの様な軌道を描いて戻ってきたカッターを、ロックマンが右手でキャッチする。 「素晴らしい・・・!!戦えば戦う程・・・戦いに勝利すればする程に強くなる無限の可能性!!武器を使い分ける事で、あらゆる戦況に対応出来る無敵の万能性!!」 ブンビーヘリとカマドーマーの襲撃に対し、ロックマンはレッド&イエローにカラーチェンジする。 「ファイヤーストーム!!」 ボオオオオオッ!! ロックマンの周囲を高熱の火球が回転し、バリヤーとなって彼を守る。 そして上空に地上と四方八方から襲い来る大群は、炎のバリヤーに防がれて撃墜されていく。 「・・・その力・・・欲しい!必ず我が物にしてやる!!」 獲物を狙う野獣の如く、怪しく目を光らせてロックマンを見詰める男。 その事に気付かずに戦うロックマンは、巨大なビッグアイのプレス攻撃を俊敏に避け続ける。 そしてアッシュグレー&イエローに変わると、右腕のバスターをビッグアイに向けて構える。 「サンダービーム!!」 バチィィィィッ!! 「ギ・・・ビビビッ・・・!!」 高電圧の電撃を浴びたビッグアイは、全身の回路をショートさせて大爆発を起こした。 そしてロックマンが走り去った後の通路には、おびただしい量の機械の残骸が散乱していた。 (・・・ごめんよ、壊してしまって・・・出来れば戦いたくなかったんだ・・・君達の為にも、僕は必ず平和を取り戻す!!もう二度とロボット同士で戦わなくてもいい様に・・・!!) 全滅した作業用ロボット達の残骸を後にして、ロックマンは振り返る事無く通路を走り続けた。 そうする事で一刻も早く平和を取り戻す事が、自分が破壊してしまったロボット達への償いになるのだと、自分に強く言い聞かせた。 ガコンッ!! 「うわっ!?」 だが走っていたロックマンの足元の床が突然、前後真っ二つに開いた。 あまりに突然の事で避ける事が出来ず、ロックマンは穴の中を落下していく。 「くっ・・・!」 空中回転する事で落下速度を和らげ、着地のダメージを最小限にしようと試みるロックマン。 そしてどれだけ深く落ちただろうか、ロックマンは何とか無事に着地する事に成功した。 「しまった・・・侵入者撃退トラップか」 一寸先も見えない程の真っ暗闇で、天井も壁も地面も分からない。 しかし周辺から僅かに聞こえてくる機械の作動音で、ここがまだ要塞内である事は分かった。 「早くここから脱出しないと・・・」 今の落とし穴の様に、またトラップがあるかも知れない。 何も見えない真っ暗闇の中で不安はあったが、とりあえず出口を探そうと試みるロックマン。 『その必要はない』 だがその時に男の声が聞こえ、ロックマンは咄嗟に身構えた。 彼にとっては聞き覚えがある所か、忘れたくても忘れられない声だ。 『ここでお前は最後を迎えるのじゃ!!』 ピカッ!! 「うっ!」 真っ暗闇の中を突如として強烈な光が照らし、その眩しさに思わず目を瞑るロックマン。 そして恐る恐る目を開けた時、彼の目の前には不思議な空間が広がっていた。 学校の体育館くらいはある広い密室で、出入り口らしき箇所は全く見当たらない。 前方の壁は一面が小さなマスに分割された大型モニターとなっていて、一つ一つのマスが様々な色に点滅を繰り返している。 そして大型モニターの下には、人一人が入れそうな大きさのカプセルが6つ設置してあった。 「ここは・・・一体・・・?」 呆気にとられたロックマンが部屋中を見渡していると、またも男の声が聞こえてきた。 『久しぶりじゃなあ・・・小僧。お前が家庭用ロボットじゃった「あの時」以来か?』 大型モニターの点滅が止まり、一人の男の後ろ姿が映し出される。 そして男が振り返って対面した時、ロックマンの中で男と「あの時」の悪魔が完全に重なった。 「・・・お前は!!」 『そう言えば自己紹介がまだじゃったのう。ワシの名はワイリー・・・アルバート=W=ワイリー。偉大なる世紀の大天才科学者Dr.ワイリーとは、ワシの事じゃ!!』 やや誇大気味に自己紹介したDr.ワイリーは、冷笑を浮かべながらロックマンを睨み付けた。 不気味な程に痩せこけた長身の老人で、頭頂部は禿げているが、即頭部からは悪魔の翼を連想させる形の灰色の髪が生えている。 そして狂気に汚れたその鋭い目からは、優しさや思いやりといった温かさは全く感じられない。 同じ科学者でもライト博士とは何から何まで正反対で、まさしくマッドサイエンティストにして悪魔と呼ばれるに相応しい男だ。 「ドクター・・・ワイリー・・・!!」 男の名前を確認する様に呟きながら、ロックマンもDr.ワイリーに睨み返した。 彼の中で憎しみと言う感情が生まれたのは、この時が初めてかもしれない。 兄弟も平和も信頼も、自分にとって大切な全てを破壊しようとした元凶が目の前にいるのだ。 『クックックッ・・・憎いか?このワシが・・・お前の兄弟機達を暴走させ・・・お前達の平和な日常をブチ壊し・・・お前達の製作者が長年の苦労の末に築き上げた人間とロボットの信頼関係までも破壊しようとした、このワシが憎いか!?』 「当たり前だ!!お前のせいで・・・お前のせいでみんなが・・・!!」 『そうかそうか!ワッハッハッハッハッハッ!!最近のロボットはよく出来ておるわ!憎むなどと言う芸当まで出来るとはな・・・ハァ〜ッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!』 ロックマンの気持ちを逆撫でするかの如く、腹を抱えて大声で笑うDr.ワイリー。 だが笑う事を止めた途端、ロックマンを睨み付ける彼の目も憎しみに満ち溢れていた。 『ワシもお前が憎い!!憎くて憎くて憎くて堪らん!!完璧なはずのワシの偉大なる計画が、たった1体のロボットごときに妨害されるとは思ってもみなかった!!・・・ライトの奴め、いつも肝心な所でワシの邪魔をする!!あいつのお邪魔虫っぷりは、昔からちっとも変っとらん!!』 (・・・ライト博士の知り合い・・・なのか?) Dr.ワイリーの発言の端々から、彼とライト博士の因縁関係を察するロックマン。 『・・・だがしかし!!寛大なワシにも我慢の限界というものがある!これ以上、ワシの計画に支障をきたす訳にはいかん!もう二度と邪魔する気が起きん様に、ライトにはお灸を据えてやらねばなるまい!!』 ほぼ一方的に喋っていたDr.ワイリーの目に、今度は背筋が凍る程の殺気が宿る。 『・・・小僧・・・ライトの希望たるお前を、この場で絶望に変えてな・・・!!』 ブゥゥゥゥゥン・・・!! 大型モニターの下にある6つのカプセルに光が灯り、それぞれの中に薄く人影が見えた。 しかし人型でありながら異形でもあり、中にいるのが人間ではなくロボットである事が分かる。 「くっ!」 ロックマンは右腕をバスターに変形させ、6つのカプセルに向かって構えた。 「なめるな・・・僕はもう「あの時」の僕じゃない!!戦う力を手に入れて、戦闘用ロボットに・・・ロックマンになったんだ!!絶対にお前の思い通りにはさせない!!」 バスターに闘志をチャージするロックマンに対し、Dr.ワイリーは馬鹿にした様に鼻で笑う。 『・・・フン・・・どうかな?お前は「あの時」の小僧のままじゃよ。いくら姿形が変わろうとな・・・』 プシュウウウ・・・ カプセルがゆっくりと開き、大量のスモークと共に6つの人影が外に出る。 「ああっ!?」 それらはロックマンにとってあまりにも衝撃的で、彼の闘志を一気に奪ってしまう程だった。 『クックックックッ・・・小僧、こ奴らに勝てるかな?』 驚愕するロックマンの様子を見て、残忍な笑みを浮かべるDr.ワイリー。 「み・・・みんな!!」 カットマン、ガッツマン、アイスマン、ボンバーマン、ファイヤーマン、エレキマン・・・カプセルから出てきた6体のロボットは、ロックマンと同じライトナンバーズの兄弟達だったのだ。 |