ひとりじゃない
Stage 2
「みんな・・・ど、どうしてここに!?」 思わぬ形でカットマン達と再会したロックマンは、明らかに動揺していた。 ライト研究所にいるはずの彼らが、どうしてこの場にいるのか分からなかったからだ。 対するカットマン達は何も答えず、ただ黙って目の前のロックマンを睨み続けている。 しかも彼らの目は明らかに「あの時」と同じ、感情も意志も感じられない機械の目だった。 「・・・まさか・・・!!また操られて・・・」 ますます動揺するロックマンの様子を見て、ニヤリと冷笑を浮かべるDr.ワイリー。 そしてマスターからの命令を待つカットマン達に向かって、マスターとして大声で命令を下す。 『かかれいっ!!』 命令を受けると同時に、真っ先に攻撃を仕掛けたのはボンバーマンだった。 どこからともなく爆弾を取り出すと、それをロックマンに向かって蹴り込んだ。 ボボムッ!! 的確に標的目掛けて飛んできた爆弾が、床に落ちると同時に爆発する。 「くっ・・・!」 寸前で爆発を避けたロックマンだが、これはまだ戦闘開始のゴングにすぎなかった。 シュワッ!! バチィィッ!! ボフォオオオッ!! アイスマンが冷気の矢を、エレキマンが高電圧の電撃を、ファイヤーマンが高熱火炎を続けて放ってきたのだ。 「や・・・やめろ!やめてくれ、みんな!!」 何とか攻撃を避け続けつつ、兄弟達を説得しようとするロックマン。 だが兄弟達にその声は届かず、攻撃を止める所かますます激しく攻撃してくる。 (ククク・・・思った通りじゃ) 7人のライトナンバーズが繰り広げる激闘を見物しながら、内心ほくそ笑むDr.ワイリー。 『どうした?さっきから逃げてばかりではないか・・・説得など無駄と言う事は、「あの時」に死ぬ程思い知ったじゃろう。この前はこ奴らとあれだけ激しく戦ったのに、今は何故戦おうとせん?こ奴らから奪った武器を使うお得意の戦術で、ちっとは反撃してみせたらどうじゃ』 「くっ・・・」 大きく息を切らすロックマンに向かって、Dr.ワイリーが挑発的な言葉をぶつける。 バキバキバキッ・・・!! ガッツマンが自分が入っていたカプセルを掴み、床から力任せに引き抜いた。 そしてそれを軽々と持ち上げ、ロックマンに向かって投げ付ける。 グシャッ!! ロックマンがジャンプして避けると、床に叩き付けられたカプセルはバラバラに砕け散った。 だがロックマンのジャンプに合わせて、カットマンが更に高くジャンプして掴み掛ってきたのだ。 「ぐっ!!」 空中で組み合い、そのまま床に落下して何度も転がる二人。 そしてマウントポジションの取り合いを制したロックマンは、そのまま右腕をバスターに変形させてカットマンの頭に突き付けた。 「おっ・・・」 展開が予想と違ったのか、小さく驚きの声を上げるDr.ワイリー。 しかしロックマンはバスターの銃口を突き付けたまま、なかなかカットマンを撃とうとしない。 それどころかバスターを小刻みに震わせ、終いにはカットマンの頭から放してしまった。 (・・・ダメだ・・・僕はもう・・・みんなと・・・) バスターを下げて右腕に戻し、苦渋の表情で項垂れるロックマン。 だがその隙を狙ったカットマンが、頭のカッターを手に取ってロックマンに切り付ける。 シュバッ!! 「うっ!」 咄嗟に後方に跳んでカットマンから離れたものの、ロックマンの左頬に切り傷が付いた。 そしてゆっくりと立ち上がったカットマンと共に、他の5人も並んでロックマンに迫る。 「マスターノショウガイトナルテキハ・・・」 「スベテ・・・ハカイスル!!」 目と同様に一切の感情や意志を感じさせない、機械的な口調で言い放たれる言葉。 カットマン達がロックマンに対して行った攻撃は、まさしくこの言葉を実行しようとした形だった。 「ううっ・・・」 じわじわと迫り来るカットマン達に圧され、じりじりと後ずさりするロックマン。 その目は実に弱々しく、つい先程まで漲っていた闘志は微塵も感じられなかった。 『ウワ〜ッハッハッハッハッハッハッ!!折角の絶好のチャンスじゃったのになあ!!やはりお前は「あの時」の小僧のままじゃよ!!ワッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!』 壁際まで追い詰められたロックマンを見下ろし、愉快そうに大笑いするDr.ワイリー。 『・・・もう戦いたくない、傷付けたくない・・・それがお前の本音じゃ。お前のこれまでの戦いぶりを観察してきて、ワシはある事に気付いた。お前が本当は戦う事を望んでいない事にな・・・特にこ奴らとの最初の戦闘では、それが顕著に表れおった。お前はこ奴らを完全に破壊してしまわん様に、攻撃を手加減していたのじゃ。下手をすれば自分が破壊されるかもしれん危機的状況であっても、こ奴らを気遣って戦っておるのが、ワシにははっきりと分かった!!』 「う・・・」 Dr.ワイリーの的確な指摘を受けて、ロックマンの表情がますます弱々しくなる。 『・・・それでも何とか戦いに勝ち抜き、こ奴らを無事に回収出来た事で、お前はすっかり安堵しておった。これでもうこ奴らと戦わなくて済む・・・とな・・・ところが!!』 6体の忠実なロボットを眼下に従え、Dr.ワイリーの得意げな声が更に高まる。 『今再びこ奴らと戦う事になった時、お前は怖くなってしまった!!もし誤って攻撃し、破壊してしまったらどうしよう・・・最初の戦いはそれでも上手くいったが、今度は失敗するかも知れん・・・』 「や・・・やめろ・・・」 『いくらロボットでも、動力炉や電子頭脳を破壊されれば・・・』 「やめろーーーーーっ!!」 突然大声で叫び、Dr.ワイリーの言葉を途中で遮ったロックマン。 自分の攻撃で兄弟達が破壊され、機械の残骸になって散乱する様を想像してしまったのだ。 そして顔面蒼白で今にも泣き出しそうな彼を、Dr.ワイリーは冷笑を浮かべて見下す。 「・・・図星じゃな。フッフッフッフッフッ・・・」 確かにDr.ワイリーの言う通り、ロックマンは戦う事を望んでいなかった。 元々の性格が争い事を好まず、ほんの些細な口喧嘩でも相手が傷付くのを嫌がる程だった。 それでも平和の為、兄弟達を止める為に戦う決意をしたが、極力戦闘は避けたかった。 戦闘の中で自分の攻撃が相手を傷付け、苦しめ、破壊してしまうのが怖くて堪らなかった。 強大な戦闘力を持つ戦闘用ロボットの戦士「ロックマン」に生まれ変わっても、その“心”は優しすぎる程に温和な家庭用ロボットの少年「ロック」のままだったのだ。 「卑怯だぞ、Dr.ワイリー!!みんなをまた利用するなんて・・・」 『卑怯・・・?フン、負け惜しみにしか聞こえんな。ロボットを有効活用してどこが悪い?』 ロックマンに卑怯者と罵られても、悪びれる所か舌を出しておちょくるDr.ワイリー。 「・・・“優しさ”・・・その甘っちょろくて反吐が出そうな感情・・・ライトが造った“心”とかいうプログラムの産物か・・・ライトが何故、そのプログラムも改造しなかったのか理解出来んな。どんなに優れた性能を・・・いくら強大な戦闘力を持っておっても、そのプログラムが邪魔をして全く発揮出来ず、戦場で戦えん様では、戦闘用ロボットとして致命的じゃよ!!」 パキパキパキ・・・!! 「うあ・・・あ!」 兄弟達の激しい攻撃から逃げ続けていたロックマンだが、それも出来なくなってしまった。 アイスマンのアイススラッシャーを受け、下半身を凍らされて動けなくなってしまったのだ。 『・・・しかし、こ奴らには“心”が無い・・・』 ザシュッ!! 「うぐっ!!」 動けないロックマンの背中を、カットマンのローリングカッターが大きく切り裂く。 『この偉大なるマスター・・・Dr.ワイリーの命令に従い・・・』 ボオオオオオッ!! 「うわあっ!!」 更にファイヤーマンのファイヤーストームを浴び、全身火達磨にされるロックマン。 『常に全開でその性能を発揮出来る・・・!!』 ドガァァァン!! 「がっ・・・!」 ボンバーマンの蹴ったハイパーボムが、ロックマンを包む炎で着火して大爆発を起こす。 そしてその爆風で火達磨から解放されたものの、吹っ飛ばされたロックマンの体をガッツマンの大きな両手が掴む。 『・・・命令を実行する為には、悩んだり恐れたりする意志など決して無い・・・』 メキメキメキッ・・・!! 「ぐあああああ・・・!!」 ガッツマンのスーパーアームで握り締められ、全身が軋んで苦悶の声を上げるロックマン。 続けてガッツマンはボールの様に、ロックマンの体を天井に向かって全力で放り投げる。 『痛みも苦しみも・・・そして“優しさ”も・・・命令実行の妨げになる感情も一切無い・・・』 ドゴォッ!! 「がはっ・・・!!」 体を天井に叩き付けられ、全身のフレームが砕けそうな衝撃がロックマンを襲う。 そして天井にめり込んだロックマンに向かって、エレキマンが高圧電流が走る右手を揚げる。 『命令を完璧に実行してこそロボット!!故にロボットは完璧な機械でなくてはならぬ!!』 バチバチバチバチバチィッ!! 「うわああああああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」 サンダービームの凄まじい電光に包まれ、ロックマンの悲痛な叫び声が部屋中に響き渡る。 そしてボロボロに傷付いたロックマンの体は、まるで捨てられた人形の様に床に落下した。 『・・・そう・・・ロボットに“心”は不要なのじゃ・・・!!』 |