ひとりじゃない
Stage 5
WWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWW・・・ (・・・マジかよ・・・これがロックの電脳空間だってのか!?) (酷いな・・・かなり洗脳が進行してしまっている・・・) (俺達が洗脳された時もこんなだったのか・・・) 悪の洗脳プログラムに侵食され、膨大な量の「W」に覆われてしまったロックマンの電脳空間。 その中を流星の如く突き進み、電脳空間の中枢を目指す六本の光があった。 (・・・どうやらロックの電子頭脳にインストールされた洗脳プログラムは、オレ達を操り暴走させたそれよりも遥かに強力らしいな・・・オレ達は“心”を封印され、言動の主導権を奪われた程度で済んだが・・・このままではロックの“心”が破壊されてしまうかもしれん・・・!!) ロボットはボディが多少壊れても、電子頭脳が無事ならば元通りに再生する事が出来る。 だがその逆、電子頭脳のメインプログラムが壊れたり消えてしまった場合は、そのロボットはもう二度と元通りには再生出来ない。 例え再生してもボディが同一なだけで、中身は全く違う別物のロボットになってしまうのだ。 つまりロックマンの“心”が破壊されてしまったら、それは彼の確実な死を意味するのである。 (んな事絶対にさせねえっ!!ロックは・・・俺達のロックは絶対に死なせねえぞっ!!) (ロックはボク達を命懸けで助けてくれた・・・今度はボク達がロックを助ける番だっ!!) ロックマンを助けたいと強く思う意志を共にし、六本の光は電脳空間の中枢へと急いだ。 そこに行けばロックマンのメインプログラム、そして彼を苦しめる洗脳プログラムが在るはずだ。 (・・・見えた!あそこだ!) ギュンッ!! 荒れ果てた電脳空間の中枢に降り立った六本の光は、それぞれカットマン、ガッツマン、アイスマン、ボンバーマン、ファイヤーマン、エレキマンに姿を変えた。 だがその途端に彼らが目にしたのは、とても痛々しくて残酷な惨劇だった。 (ロック!!) 全身がボロボロに傷付いた黒髪の少年が、十字架に磔にされて項垂れていたのだ。 カットマン達にとっては親しみ深い家庭用ロボット「ロック」の姿をしたこの少年こそ、ロックマンのメインプログラムである“心”が具現化した姿だった。 (おい、早く外せ!!) (ファイヤーマン、そっちを頼む!) (おう!!) (アイスマン、お前は下だ!) (分かってるよっ!) (ちきしょう・・・ひでえ事しやがる・・・!!) あまりの非道に怒りを覚えながら、カットマン達は急いでロックを十字架から外した。 そしてカットマンがロックの上体を抱き抱えると、ロックは力無く首や腕を下に垂らした。 (ロック・・・ロック!!しっかりしろ!!) (俺達はお前を助けに来たんだ!頼むから返事をしてくれ!!) カットマン達が必死に呼び掛けても、ロックは返事をする所かピクリとも動かない。 まるで死んでしまったかの様に眠り続けるロックの状態に、不安は絶望に変わっていく。 (ロック・・・そんな・・・) (間に合わなかったのかよ・・・ちくしょおっ!!) ドガッ!! アイスマンが切なさに涙ぐみ、ボンバーマンが悔しさの余り両拳を地面に叩き付ける。 (・・・いや、このロックはオレ達と同じ“心”のプログラムだ。本当に死んでしまったのなら、跡形も無く分解し消滅するはず・・・こうして消滅せずにいるという事は、まだ生きている証拠だ・・・) (本当かよ!?) (良かった・・・) エレキマンの状況分析に安心して胸を撫で下ろし、ロックの寝顔を見詰めるカットマン達。 (・・・だがあまりにもダメージが大きい・・・しかも大量に“心”のデータを消失してしまっている。だから見る事も聞く事も出来ないし、オレ達がここにいる事も分からない・・・何も感じる事が出来ないから、動く事はもちろん・・・考える事すら出来ないんだ・・・) (何だと!?じゃあロックは・・・) 更なるエレキマンの状況分析を聞いて、一同が再び絶望を感じたその時だった。 (ククク・・・そうだよ。そいつはもう死んだも同じ・・・随分としぶとく抵抗してきたんでね。うざったいから、お仕置きして黙らせてやったのさ・・・) 背後から聞こえてきたロックと同じ声に驚き、六人は同時に後ろを振り返った。 そして目にした信じられない光景に、思わず言葉を失ってしまった。 (・・・やあ、僕の電脳空間にようこそ。僕の兄弟達・・・!!) 何とそこに立っていたのは、もう一人のロック・・・いや、戦闘用ロボット「ロックマン」だったのだ。 (いやあ、確かみんなは僕がスクラップ寸前にして、ライト研究所に放置してきたのに・・・わざわざ僕を助ける為に来てくれたんだ。嬉しいなあ・・・どうやってここに侵入したの?) 信じられない光景に唖然とするカットマン達に対し、嬉しそうに微笑み掛けるロックマン。 しかし兄弟達を見詰めるその笑顔は、親しい優しさを感じさせるブルーの瞳ではなく、恐ろしい凶悪性を感じさせるダークレッドの瞳だった。 そして本来は明るいブルー&スカイブルーであったはずのボディカラーも、暗い絶望感を与えるブラック&ダークグレーに輝いていた。 (ど、どうなってんだこりゃ!?ロックがいてロックマンもいる!?) (ロックが二人いるよっ!?) (馬鹿な・・・こんな事があるのか!?) 目の前の黒いロックマンと自分達の傍らのロックを見比べて、ますます動揺するカットマン達。 しかしエレキマンだけは冷静に状況を判断し、黒いロックマンの正体をすぐに言い当てた。 (・・・そうか・・・お前は洗脳プログラム!!お前がロックの“心”のデータを奪い取ったのか・・・そしてロックの記憶を持ち・・・自分の意志や感情を持てる様になった・・・!!) (何だって!?) (アハハハハッ!!さすがエレキマン・・・正解!!) エレキマンの言葉に驚愕するカットマン達を見て、嬉しくも可笑しそうに笑う黒いロックマン。 彼は洗脳プログラムがロックマンの電子頭脳を洗脳する過程で、ロックマンの“心”のデータを吸収して生まれ変わった姿だったのだ。 (・・・その通り・・・僕は洗脳プログラムさ!!そいつの“心”のデータは、僕が全て吸収してやったよ。意志も感情も記憶も・・・それで僕はこの姿をしてるってわけ!!・・・でも“優しさ”だけは不味かったから、吸収する前に吐き出してやったけどね・・・) (そ、そうか・・・“優しさ”が残ったから、このロックは消滅せずに済んでいるのか・・・) 漸く状況を理解したファイヤーマンに続き、カットマン達も半信半疑でロックを見詰める。 だがやはりロックはその視線を感じ取る事も無く、相変わらず静かに眠り続けている。 (クスクス・・・それにしても、そいつの“優しさ”には爆笑しちゃったよ。戦闘用ロボットのくせして戦いたくないなんて言うんだもん・・・それで自分からチャンスを潰しちゃったり、自分でピンチを招いたりしたんだよ。仕舞いには君達を助ける為だって見事に騙されちゃって、自分から僕を受け入れちゃってね・・・そしたらこの通りさ!・・・全く間抜けったらありゃしない・・・) (・・・ロック・・・ボク達の為に・・・) (何て事を・・・) (バカ野郎・・・!!いつもそうだ・・・こいつは自分の事より俺達の事を・・・) カットマンは申し訳なさに涙ぐみながらも、自分達を助ける為に傷付いたロックを抱き締めた。 それはカットマンだけでなく、ここにいるロックの兄弟達の誰もが同じ気持ちだった。 (・・・ああ、そうそう・・・マスターが言ってたなあ・・・そいつは「あの時」から何も変わってないってね・・・全くその通りだよね。戦闘用ロボットになっても、中身の“心”は家庭用ロボットのままだったんだから・・・それで自分は弱いんだって、情けなくて悔しくて泣きべそかいてるんだもん・・・これは改造したライト博士の致命的なミスだよ。「ロボット工学の父」の名が泣くねぇ・・・) (くっ・・・) (この野郎・・・!) 段々と調子に乗る黒いロックマンの暴言に、ガッツマン達は込み上げてくる怒りを隠せない。 ロックだけでなく生みの親であるライト博士までも馬鹿にされたとあっては、ライトナンバーズのロボットとしての誇りが許せなかった。 (・・・やっぱりマスターの言う通り、ロボットに“心”はいらないよ。弱点にしかならないしさ。特に甘ったるくて吐き気がする“優しさ”なんてのはね・・・!!キャハハハハハハハハッ!!) (てめぇっ!!) 黒いロックマンの嘲笑に堪忍袋の緒が切れ、ボンバーマン達がいきり立ったその時だった。 シュッ!! ロックを抱き抱えたままのカットマンが、誰よりも早く行動に出ていた。 カットマンの投げたローリングカッターが、黒いロックマンの首をかすめて持ち主の右手に戻る。 (危ないなあ・・・何するのさ、カットマン!!) 寸前でローリングカッターを避けた黒いロックマンが、カットマンへの嫌悪感を顕わにする。 (・・・このニセモノ野郎・・・てめぇに何が分かる・・・俺達のロックの事も・・・ライト博士が俺達に与えてくれた“心”の力も!!俺達のロックは“優しさ”があるからロックマンになったんだっ!!いくら同じ記憶を持ってても・・・同じ姿をしてても・・・“優しさ”を持ってねえてめぇは絶対にロックマンじゃねえっ!!) 黒いロックマンを睨み付けるカットマンの目に、怒りが火種となって闘志が燃え上がる。 そして彼に賛同したアイスマン達五人も、黒いロックマンを睨み付けてそれぞれ言い放つ。 (そうだよっ!!ボク達は絶対にお前をロックマンだって認めないぞっ!!) (そうと分かりゃ話は早い・・・ニセモノ退治といこうぜ!!) (お前を倒して、ロックを悪の洗脳から救い出す!!) (てめぇに“心”の力を思い知らせてやるから、覚悟しやがれ!!) (お前が奪い取ったロックの“心”のデータを返して貰うぞ!!) ロックを地面に置いたカットマンを先頭に、六人が一斉にそれぞれの武器を構える。 (・・・フン、みんな僕に一度負けたくせに・・・まあいいさ、どうせ僕の勝ちは決まってるんだ・・・君達のリターンマッチ、受けてやるよ!!) ジャキンッ!! カットマン達の挑戦を受諾した証に、左腕をバスターに変形させる黒いロックマン。 (・・・さあ、見せてみなよ・・・君達がそこまで言う“心”の力ってヤツを!!・・・僕も見せてやる。そいつに代わって僕がメインプログラムになる時を・・・ニセモノがホンモノになる瞬間をね!!) (ふざけんなっ!!てめぇの好きにはさせねえぞっ!!) 余裕で戦闘体勢に入る黒いロックマンと、彼への敵意を剥き出しにするカットマン達。 ロックマンの電脳空間という異世界にて、再びライトナンバーズのロボット同士の戦闘が繰り広げられようとしていた。 (ロック・・・待ってろよ!!必ず俺達が助けてやるからな!!) |