ひとりじゃない
Stage 6
(くらいやがれっ!!) 戦闘開始のゴングを鳴らすが如く、真っ先に攻撃を仕掛けたのはボンバーマンだった。 どこからともなく爆弾を取り出すと、それを黒いロックマンに向かって蹴り込む。 ボボムッ!! 的確に標的目掛けて飛んできた爆弾が、床に落ちると同時に爆発する。 (おっと!相変わらずボンバーマンはキックが上手いねぇ・・・芸術的だよ) (うるせえっ!!ロックならともかく、てめぇに褒められても嬉しくねえやっ!!) 爆発を避けた黒いロックマンの褒め言葉に苛立ち、怒鳴り声を上げるボンバーマン。 すぐさまアイスマン、エレキマン、ファイヤーマンも、三人同時に連続で攻撃する。 (えいっ!!) (むんっ!!) (はあっ!!) シュワッ!! バチィィッ!! ボフォオオオッ!! 氷の矢、高圧電流、高熱火炎と、凄まじい連続攻撃が黒いロックマンを襲う。 だが黒いロックマンはそれらの攻撃を読んでいるかの如く、次々と見事に避けて見せる。 (ウフフフッ・・・君達の攻撃パターンは全てお見通しだよ!!) 余裕を全く崩さない黒いロックマンに対し、ファイヤーマン達には早くも焦りの色が見え始める。 (くそっ!攻撃が当たらん!!) (あいつはロックの記憶を持ってるんだ!!ボク達と戦った記憶を・・・) (戦った事があっから、オレ達の動きを読めるってのか!?) (怯むんじゃねえっ!!だったら読めねえくらいに攻撃しまくれ!!) カットマンも加わってガムシャラに攻撃を仕掛けるも、黒いロックマンには一撃も当たらない。 (うわっと!!・・・さすがに厳しくなってきたなあ・・・避けるのが精一杯だぁ〜) それでも徐々に追い込んでいるのは確かだが、何故か黒いロックマンは余裕で笑っている。 その様子を見ていたエレキマンは、攻撃しながらも疑問を感じずにはいられなかった。 (・・・おかしい・・・) (えっ?) (何故だ?あの余裕・・・オレ達の動きが読めるだけではない・・・別の何かがあるのか・・・?) (そ、そう言えば・・・あいつは確か、自分は絶対勝てるみたいな事言ってたけど・・・) エレキマンが呟いた疑問を聞いて、彼の方を向いたアイスマンにも同様の疑問が生まれる。 バキバキバキッ・・・!! (どりゃあああっ!!) 力任せに十字架を引き抜き、黒いロックマンに向かって思い切り投げ付けるガッツマン。 (凄い!!やっぱりガッツマンのパワーは世界一!!) 挑発とも取れる褒め言葉をぶつけつつ、ジャンプして十字架を簡単に避ける黒いロックマン。 だが彼のジャンプに合わせて、カットマンが更に高くジャンプして掴み掛ってきたのだ。 (・・・舐めやがって・・・調子に乗るのもいい加減にしろよ、このニセモノ野郎!!) 空中で黒いロックマンと組み合ったカットマンは、怒りが頂点に達した目で相手を睨み付けた。 ロックマンと同じ姿でありながら、ロックなら決して取らない態度を取る事が許せないのだ。 そしてカットマンは黒いロックマンと組み合ったまま地面に落下し、何度も転がった末にマウントポジションの取り合いを制した。 (これで・・・終わりだっ!!) 左手で黒いロックマンの顔を押さえ付け、ローリングカッターを右手に取るカットマン。 (勝った!!) 黒いロックマンの首に振り下ろされようとしているローリングカッターを見て、アイスマン達も勝利を確信して拳を握り締める。 (・・・ぐすっ・・・ぐすん・・・) しかしその途端にすすり泣く声が聞こえ、カットマンは思わず振り下ろす手を止めてしまった。 そして左手を除けてみると、黒いロックマンが大粒の涙を流して泣いていたのだ。 (ななっ・・・何泣いてんだ!?) (・・・だって・・・怖いんだもん・・・僕・・・死んじゃうんだよね・・・消えちゃうんだよね?) 予想外の黒いロックマンの豹変ぶりに、カットマンもガッツマン達も呆気に取られてしまった。 (当たり前だっ!!てめぇが消えればロックが助かるんだあっ!!) 気を取り直して相手を睨み付け、再びローリングカッターを振り下ろそうとするカットマン。 (・・・消える・・・ま、まさか!?しまった!!) 疑問の答えに気付いたエレキマンが血相を変え、慌ててカットマンに叫んだ。 (やめろ!!そいつを攻撃するな!!) 思い掛けないエレキマンの一声に驚き、カットマンはまたも思わず振り下ろす手を止めた。 そして振り下ろされたローリングカッターは、黒いロックマンの首の寸前で止まっていた。 (何で止めんだよ!?) (そうだぜ!!折角のチャンスなのによ!!) カットマンが横目でエレキマンを睨むと、黒いロックマンは泣くのを止めてニヤリと笑った。 ガッツマン達もカットマンと同様で、納得出来ないと言う表情でエレキマンを見ている。 (・・・そいつはロックの“心”のデータを吸収して生まれた存在だ・・・うかつに攻撃し、そいつを消滅させてしまえば、ロックの“心”のデータも一緒に消えてしまう事になる・・・!!) (ええっ!?) (な・・・何だとぉっ!?) エレキマンの言葉にファイヤーマン達は驚愕し、カットマンも驚いてエレキマンに振り返る。 だがその隙を突いた黒いロックマンが、左腕のバスターを上げてカットマンの後頭部に向けた。 (危ないっ!) それに気付いたアイスマンの声で、カットマンも自分を狙う凶器に気付いた。 そして咄嗟に後ろに跳んだ所で、黒いバスターの銃口が黒く輝いた。 ズバッ!! (ぐわっ!!) (カットマン!!) 黒い閃光に右肩を撃ち砕かれ、右腕を失って地面に叩き付けられるカットマン。 (うぐ・・・ああっ・・・) (大丈夫か!?) (バカッ!!大丈夫なわけねえだろ!!) 倒れて苦痛に呻くカットマンの所に、ファイヤーマン達が慌てて駆け寄る。 その様子を立ち上がって見ている黒いロックマンは、分解して消滅しかかっているカットマンの右腕を左手に持ちながら、呆れた様に溜息をつく。 (はぁ・・・ダメじゃないか。チャンスは最大限に活かさないと・・・そんなんじゃ僕のホンモノ君と何も変わらないぞぉ・・・) (ぐぐっ・・・て、てめぇ・・・知っててわざと俺達に攻撃させやがったな・・・!!) 苦痛に顔を歪めながらも上体を起こし、黒いロックマンを怒りの目で睨み付けるカットマン。 対する黒いロックマンは冷笑を浮かべながら、動揺するカットマン達に向かって言い放つ。 (ククク・・・ホンモノ君は言ってたよ。自分が洗脳されたら、君達の手で自分を破壊して欲しいってね・・・どうやら彼はライト博士やロールちゃんを悲しませたくなかったみたいだけど・・・肝心の君達がこの調子じゃ、その頼みは聞き入れてくれそうにないなあ・・・) (な・・・何言ってやがる!?んな事出来るわけねぇだろ!!) ボンバーマンが驚いて怒鳴ると、黒いロックマンが抱腹して大笑いする。 (アハハハハッ!!そうだよね!出来ないよね!!だって君達もホンモノ君と同じ、ライト博士が造った“心”のプログラム・・・つまり“優しさ”を持ってるからさ!!彼を助けたいからここに来たのに、助けられなかったら最悪だもんね・・・だから君達は絶対に僕を攻撃出来ない!!・・・これは麗しき兄弟愛ってヤツ?泣かせるねえ・・・) (くっ・・・!!) (悔しいがヤツの言う通りだ・・・オレ達はヤツを攻撃出来ん!ロックを助ける為には・・・) (攻撃しちゃいけないなんて・・・どうやって戦えばいいんだよぉ・・・) ロックを助けたいと言う兄弟達の気持ちを狡猾に利用し、精神面で有利に立つ黒いロックマン。 相手の気持ちを何より優先して考慮する気遣い、つまり“優しさ”を持つ本来のロックマンならば絶対に用いない、まさしく悪魔の如き戦法だ。 (・・・でもこれではっきりと分かったよ。君達が言ってた“心”の力は弱いし、邪魔だから必要ないって事がね・・・ここの始末が全て終わったら、、僕は吸収した“心”のデータをマスターに頼んで消去して貰うよ。そうでなくちゃマスターの命令に集中できないし、戦場で痛がったり悩んだりしてる隙に破壊されちゃったら、それこそ泣いても泣ききれないからねえ・・・) (ううっ・・・) シュウウウ・・・ カットマンの右腕が完全に消滅した所で、黒いロックマンが後退りするエレキマン達に迫る。 (・・・さて・・・じゃあ教えてくれたお礼に、そろそろ反撃と行こうかな?言っとくけど手加減はしないよ。僕には“優しさ”が無いからね・・・!!) 冷笑を浮かべる黒いロックマンの赤い瞳に、背筋が凍り付く程の殺意が灯る。 カッ!! 黒い光が輝いたと思った瞬間、カットマン達六人は満身創痍になって地面に倒れていた。 カットマンは右腕に続いて左腕も無くし、ガッツマンは自慢の装甲に何発もの貫通銃創を受け、アイスマンはその小さな体に痛々しい程の打撲傷を叩き込まれていた。 更にボンバーマンは背中を大きく抉られ、ファイヤーマンは右腕と左足を失い、エレキマンは胸と右脇腹に大きな裂傷を刻まれていた。 (うわああああああああ・・・!!) 凄まじい苦痛に悶え、呻き声を上げるカットマン達。 黒いロックマンは左腕のバスターを下ろし、その声を凶悪な笑顔のままで聞いている。 (あらら・・・思ったより呆気ないね。みんな、洗脳されてた時の方がずっと強かったなあ) (つ・・・強え・・・!) (せめて動きだけでも止められればと思ったが・・・これ程とは・・・) 戦闘力の差をはっきりと見せ付けられ、まさしく精神的に叩きのめされたエレキマン達。 悪魔の如き凄まじい力を持つ黒いロックマンは、そんな彼らに向かって自信満々に言い放つ。 (当然さ!僕は戦闘用ロボット・・・戦う為だけに生まれた戦闘マシーンなんだ!!君達みたいな工業用ロボットとは根本的に性能が違うのさ・・・まあホンモノ君は“優しさ”のせいで性能を発揮しきれなかったみたいだけど・・・本気を出せば、ざっとこんなもんさ!!・・・とりあえず消滅しない程度に痛め付けておいたよ。死んじゃったら見せたい物が見せられないからね・・・痛くて苦しいだろうけど、もう少し我慢してね) (ぐぐっ・・・!!まだだ・・・まだ倒れるわけにはいかん!!) (そうだぜ・・・動けるうちに何とかしねえと・・・!!) 必死に体を起こそうとするとエレキマンとボンバーマンの背後に、空中から「W」が降り落ちる。 バチィィィッ!! (ぐわああああっ!?) (エレキマン!!ボンバーマン!!) 何と「W」が十字架に変化し、エレキマンとボンバーマンが磔にされてしまった。 それを見て驚いたアイスマンとファイヤーマン、ガッツマンの頭上にも「W」が降り落ちる。 (うわあああっ!!) (ぐおおおおっ!!) アイスマン、ファイヤーマン、ガッツマンも、「W」が変化した十字架に磔にされてしまった。 そして倒れているロックを中心に囲う様に、五人の十字架が電脳空間の中枢に立てられる。 (どう?これでもう動けない・・・でも、よく見れる様になったでしょ?君達は何も出来ない自分達の無力・・・彼を助けられない絶望を痛感しながら、彼の最後を見届ける役目があるんだ) (くそおっ!!放せ・・・放しやがれえっ!!) (ロック・・・ロックーーーッ!!) (やめろおっ!!やめてくれえっ!!) ロックにゆっくりと迫っていく黒いロックマンに向かって、五人が悲痛な叫び声を上げる。 そして黒いロックマンがロックの直前に着いた時、一人の人影が彼の前に立ち塞がった。 (・・・ロックは・・・殺らせねえっ・・・!!) (・・・何だ・・・君はまだ動けたの・・・邪魔だからどいて貰える?) ローリングカッターを口にくわえたカットマンと、バスターを構えた黒いロックマンが睨み合う。 (やめろカットマン!!無茶だ!!) (今のお前では敵うわけがない!!逃げろ!!) (うるせえっ!!俺が逃げたら・・・誰がロックを守るんだよっ!!) ファイヤーマンとエレキマンの声を跳ね除け、その場から動こうとしないカットマン。 そんな彼の顔面に黒いバスターが向けられ、無情にも再びその銃口が黒く輝く。 ドォン!! 黒いバスターから発射された黒い閃光が、ローリングカッターを粉々に撃ち砕いた。 (がっ・・・!) (カットマン!!) 動けない兄弟達が見ている前で吹っ飛ばされ、ロックの傍らに倒れ込むカットマン。 それでも全身を震わせながら芋虫の如く這い、ロックの上に覆い被さる。 (うぐぐ・・・ふぐうっ・・・!!) (・・・うざいなあ・・・邪魔だって言ってるだろっ!!さっさとどけよ!!) さすがに苛立ってきたのか、それまで落ち着いていた口調がいきなり荒くなる黒いロックマン。 だがカットマンはロックの上から動こうとせず、ロックの寝顔を見て起こす様に呼び掛ける。 (ロ・・・ロック・・・) しかしロックは相変わらず無反応のまま、生気の無い寝顔で眠り続けている。 それを改めて感じ取ったカットマンは、声を震わせながらロックに向かって話し掛ける。 (・・・ロック・・・この大バカヤロ〜・・・何が俺達を助ける為だ・・・何が俺達の手で破壊してくれだ・・・俺達が助かっても・・・おめぇが死んだら意味ねえじゃねえか・・・ライト博士とロールを悲しませたくねえって・・・二人が一番悲しむ事をおめぇがしちまってどうすんだよぉ〜・・・) ポタッ・・・ポタッ・・・ カットマンの両目から零れる大粒の涙が、ロックの頬に落ちて流れていく。 それを見ていたアイスマンとボンバーマンも号泣し、ガッツマンとファイヤーマンは目に涙を浮かべ、エレキマンは涙を見られまいと顔を反らす。 (・・・おめぇ一人が犠牲になるなんて・・・おめぇだけが死ねば良いなんて思ってんだったら・・・絶対に許さねえぞ・・・俺は・・・俺達はおめぇとまた一緒に生きてえんだ・・・おめぇが助けてくれたこの命で・・・この“心”で・・・おめぇとまた一緒に笑ったり・・・泣いたり・・・バカやって兄弟喧嘩したりしてえんだよ・・・) 兄弟達六人の気持ちを代弁するカットマンの両目からは、零れ落ちる涙が止まらない。 ピクッ・・・ それまで全く反応を示さなかったロックの右手が、動かないはずの指が僅かに動いた。 しかし誰もそれに気付く事無く、黒いバスターがカットマンとロックに向けられたのを見ていた。 (・・・そうか・・・そんなに一緒にいたいのか・・・だったら一緒に死ぬんだね!!) (カットマン!!ロックーーーッ!!) (やめろ・・・やめろーーーーーっ!!) 兄弟達の悲痛な叫びを無視し、悪魔の黒いバスターに黒い光が灯る。 カットマンも覚悟を決めたのか目を瞑り、悔しそうに歯を食い縛る。 (・・・ロック・・・すまねえ・・・俺達はおめぇを助けられそうに・・・) バシュッ・・・!! 黒い閃光が自分を貫いたと思った瞬間、カットマンの体は後方に弾き飛ばされていた。 (つ・・・いてて・・・?) そのまま地面に倒れ伏したカットマンは、自分がまだ生きている事を不思議に思った。 両腕の欠損とダメージによって起きる事もままならなかったが、何とか顔だけは起こした。 だがその途端に彼が見た光景は、思わず我が目を疑ってしまう程に衝撃的だった。 (・・・あ・・・ああっ・・・) 何とロックが両手を広げた状態で、黒いロックマンとカットマンの間に立っていたのだ。 まるでカットマンを守る様に立ち尽くし、黒い閃光に貫かれた胸には大きな穴が開いていた。 |