ひとりじゃない


Stage 8


ビーッ!!ビーッ!!ビーッ!!ビーッ!!ビーッ!!・・・

 「どっ・・・どうなっとるんじゃ、これは!?小僧の洗脳率が低下していきおる!!」
警告音が激しく鳴り響く指令室にて、突然として起きた予期せぬ事態に驚愕するDr.ワイリー。
驚きの余りに大きく見開いた目は、ロックマンの洗脳率を示すメーターを凝視して離れない。
本来ならばロックマンの洗脳を完了すると同時に、メーターは最高点まで上昇するはずだった。
ところが最高点に達する寸前で上昇はストップし、逆に急激な速度で下降を始めたのだ。
 「・・・洗脳率62パーセント・・・54・・・39・・・21・・・」
Dr.ワイリーが呟く数字の通り、ロックマンの洗脳率の低下は速まる一方で止まらない。
 「ま・・・まさか・・・!?」
禿頭に冷や汗を流しながら、Dr.ワイリーはロックマンが映るモニターを見た。
そしてロックマンの様子を確認したその表情からは、見る見る血の気が引いていく。
 「・・・僕は・・・負けないっ・・・!!みんなが助けてくれたこの命で・・・この“心”で・・・僕はみんなと一緒に・・・生きる為に戦う・・・!!」
それまで魂が抜けた人形の様に動かなかったロックマンが、立ち上がろうと動き出したのだ。
カラーチェンジを繰り返すボディの発光は、収まる所か強く輝きを増していく。
そして洗脳により失われたはずの意志や感情が、抑揚の戻った声からは明確に感じ取れた。
 『ななな・・・なあっ!?』
 「・・・こんな物で・・・こんな物なんかでっ・・・!!」
ますます驚愕するDr.ワイリーの目の前で、よろめきながらも立ち上がったロックマン。
そしてハッチが開いたままの胸を突き出し、両拳を強く握り締めて、力の限り絶叫する。
 「僕達の“心”を壊せると思うなあ!!!」

バシュウウウウウウウウウウッ!!!

突き出したロックマンの胸の中で、動力炉に組み込まれたワイリーチップが激しくスパークする。
同時にDr.ワイリーがいる指令室では、最低点に達したメーターが爆発を起こして壊れる。


 「ライト博士!」
 「・・・洗脳プログラムが・・・消えていく・・・!!」
ライト研究所のライト博士とロールも、ロックマンの状態を示すコンピューターを見て驚いていた。
モニター画面の殆どを覆っていた「W」の文字が、二人の見ている前で全て消え去ったのだ。


シュウウウウ・・・!

悪のチップは洗脳に失敗した事を告げるが如く、マスターの目の前で粉々に砕け散った。
 「あ・・・ああ・・・ば、馬鹿な・・・こんな馬鹿なっ!?」
信じられない光景を目の当たりにして、震えるDr.ワイリーは開いた口が塞がらない。
その目が見据えるモニターには、発光とカラーチェンジが止んで本来のブルー&スカイブルーのボディカラーに戻ったロックマンが、両肩を大きく上下させて息を切らす様子が映し出される。

ドックン・・・ドックン・・・!!

ロックマンの左胸部にある動力炉が、危機を脱して正常に力強く鼓動する。
その隣にある武器トレースシステムでは、六枚の武器チップが微かに輝き続けている。
 (みんな・・・ありがとう・・・)
ロックマンは静かに胸のハッチを閉じると、そのまま右手を胸に当てた。
自身の命の鼓動と共に、自分の“心”の中で生きる兄弟達を感じられる。
 『うぐぐ・・・これは何かの間違いじゃ!!ワシのワイリーチップが・・・この天才頭脳が造り上げた究極の洗脳プログラムが・・・凡才が造った“心”のプログラム如きに敗れるはずがない!!』
一方のDr.ワイリーはまだ現実を受け止められず、信じられないと言う表情で怒鳴っていた。
そんな彼を見上げたロックマンの目には、声と同様に意志や感情を示す瞳の光が戻っていた。
静かに怒りを込めた凛々しい表情で睨み付け、洗脳が失敗した事を改めて思い知らせる。
 「ヒッ・・・!」
その射抜く様な怒りを感じ取り、思わず怯むDr.ワイリー。
そして苦し紛れにマスターの権力を使い、忠実な操り人形達に向かって命令を下す。
 『と、取り押さえろ!』
マスターの命令に即座に反応し、コピーカットマンがロックマンに飛び掛かった。
だがロックマンは右手を胸から離すと、力強く握り締めて怒りの鉄拳に変える。
 「お前なんか・・・カットマンじゃない!!」

バキッ!!

カウンターで放たれた青い鉄拳が、鈍い音と共にコピーカットマンの顔面に突き刺さった。
 「ギ・・・ギギ・・・」
潰されたモノアイから火花を散らし、後ろによろめくコピーカットマン。
そしてロックマンは瞬時に右腕をバスターに変形させ、至近距離から敵に向かって撃ち込む。
 「ロックバスター!!」

ドゥドゥドゥッ!!

頭部と胸部、腹部を閃光に貫かれ、カットマンの偽者は爆発を起こして散った。
それを目の当たりにしたDr.ワイリーは、眉毛をピクピクと引き攣らせて怒りを顕わにする。
 『ぐぬぬぬ・・・ぬううっ!!お、おのれえっ!!壊せ!破壊しろっ!!こうなったら武器トレースシステムなどいらん!!ワシの配下にならなかった事を後悔させてやるわ!!』
マスターの忠実な配下である5体のコピーロボットが、不気味にモノアイを輝かせて動き出す。
そして再び兄弟達の偽者に包囲されたロックマンは、ヘルメットを拾いながら静かに言い放つ。
 「・・・何がマスターの命令だ・・・何が世界征服の野望だ・・・そんな事の為に沢山の人達を・・・ロボットを・・・みんなを苦しめて・・・!!」
廃墟の中で項垂れ、泣き叫ぶ人々や、スクラップになって放置されたロボット達。
そして重態の兄弟達や、苦悩する父親、悲しむ妹の姿がロックマンの脳裏に浮かぶ。
 『うるさいっ!!天才は何をしても許されるのじゃ!!その天才であるワシを認めぬ、愚かな人間どもがどうなろうと知った事ではないわい!!お前達ロボットはどれだけ壊れようが、ワシの命令だけに従って、ワシの野望を叶える為だけに働けば良いのじゃ!!』
全く悪びれずに暴言を吐いたDr.ワイリーに対し、ロックマンの怒りが頂点に達する。

カキィィン!!

 「絶対に・・・許さない!!」
ヘルメットを被り、怒りを闘志に変えるロックマン。
そして右腕を再びバスターに変形させ、Dr.ワイリーが映るモニターに向かって構える。
 『小賢しいわあっ!!』
Dr.ワイリーが怒鳴り声を上げると同時に、5体のコピーロボットがロックマンに襲い掛かった。
まず最初に放たれたコピーエレキマンの電撃を、ロックマンは大きくジャンプして避ける。
 (・・・ロック・・・ロック!!)
ロックマンの“心”の中に生きる本物の兄弟達が、彼に力を貸そうと笑顔で語り掛けてくる。
 (ロック、ありがとよ!!これからもヨロシクなっ!!)
カットマンの素直な“優しさ”が、ロックマンのボディをグレー&ホワイトに変える。
 「ローリングカッター!!」

ズバシュッ!!

バスターの銃口から飛び出した鋏状のカッターが、コピーエレキマンを十字に切り裂く。
 (ロック・・・ありがとう!!俺も共に戦うぞ!!)
ファイヤーマンの熱い“優しさ”が、ロックマンのボディをレッド&イエローに変える。
 「ファイヤーストーム!!」

ボオオオオオッ!!

八千度に達する高熱火炎がコピーボンバーマンを包み込み、爆弾ごと焼き尽くす。
 (ロック・・・ありがとっ!!帰ったらまたサッカー教えてねっ!!)
アイスマンの可愛い“優しさ”が、ロックマンのボディをマリンブルー&ホワイトに変える。
 「アイススラッシャー!!」

ピキィィィィン!!

冷気の矢が炎を凍て付かせ、射抜かれたコピーファイヤーマンは動かぬ氷像と化す。
 (ロック・・・礼を言う。お前は誰よりも強い“心”の持ち主だ!!)
エレキマンのクールな“優しさ”が、ロックマンのボディをアッシュグレー&イエローに変える。
 「サンダービーム!!」

バリバリバリバリバリィッ!!

高電圧の電撃が冷気を裂き、コピーアイスマンの全身の回路をショートさせて粉砕する。
そして致命的なダメージを受けた4体の偽者は、敵に一撃も当てる事無く爆発四散した。
 「な、何て奴じゃ・・・あれだけのダメージを負って・・・エネルギーも残り少ないはずなのに・・・」
凄まじいロックマンの戦いぶりを見せ付けられ、またしても驚愕するしかないDr.ワイリー。
ロックマンは攻勢から守勢に回り、最後に残ったコピーガッツマンの攻撃を避け続けている。
 「何故、あそこまで戦える・・・?」
“心”無き力を求め続けるDr.ワイリーに、その疑問に対する答えが分かるはずもなかった。

グラグラグラッ!!

コピーガッツマンの巨体がジャンプし、着地した途端に大きな震動が起こった。
 「うわっ!」
床が揺れ動いてバランスを崩し、その場に転んでしまったロックマン。
そこにコピーガッツマンが頭上で両拳を握り合わせ、ロックマン目掛けて振り降ろす。
喰らえば一撃で叩き潰されるのは必至だが、今の体勢では避ける事は出来ない。
 (ロック、感謝するぜ!!お前のガッツは世界一・・・いや、宇宙一じゃい!!)
ガッツマンの頼もしい“優しさ”が、ロックマンのボディをブラウン&ホワイトに変える。

ズンッ!!

振り降ろされたコピーガッツマンのハンマーブローを、ロックマンの小さな両手が受け止めた。
 『ス・・・スーパーアームでスーパーアームを・・・受け止めたじゃとおっ!?』
 「ぐ・・・くうっ!」
驚愕するDr.ワイリーの目の前で、一進一退の力比べが展開される。
ハンマーブローの圧力で床に亀裂が入り、片膝を着いたロックマンの足が床に減り込む。
 「うおおおおおっ・・・!!」
だが力比べに勝ったのは、押す方ではなく押し返す方だった。
ロックマンが少しずつ押し返し、そのままコピーガッツマンの両拳を掴んで持ち上げる。
本物から受け継いだパワーが、偽者のパワーに勝ったのだ。
 「うわわわわ・・・」
司令室で恐怖に顔面蒼白し、震え上がるDr.ワイリー。
 「でやああああああっ!!」
ロックマンが気合いの絶叫を上げ、コピーガッツマンの巨体をぶん回す。
そしてDr.ワイリーが映る大型モニターに向かって、思い切り投げ付けた。
 「ぎょえええっ!?」

ガッシャアアァァァン!!

コピーガッツマンの巨体は大型モニターに直撃し、映っていたマスターの顔面に突き刺さった。
 (ロック、サンキューな!!早くライト博士とロールを安心させてやろうぜ!!)
ボンバーマンの陽気な“優しさ”が、ロックマンのボディをグリーン&ホワイトに変える。
 「ハイパーボム!!」

ドドドドドォォォォォォォォン!!!

モニターに減り込んだコピーガッツマンに、爆弾が次々と命中して爆発する。
そしてコピーガッツマンの巨体は大爆発を起こし、モニターを完全に壊して壁に大穴を開けた。
 「隠し通路・・・?」
爆風が晴れて静寂が漂うと、ロックマンはその大穴がずっと奥に続いている事に気付いた。
完全な密室と思われたが、大型モニターで脱出用の通路を隠していたのだ。
 「・・・この奥にDr.ワイリーがいる・・・!」
兄弟達の偽者を全滅させたロックマンは、そう直感して表情を更に引き締めた。
そして最終決戦の舞台へと誘う道を、決して迷う事無く駆け進んでいった。




・・・Last Stage・・・


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