Get Back The Future


Vol.1


A.D.20XX.

世界征服を企む悪の天才科学者Dr.ワイリーが引き起こしたロボット暴走事件は、Dr.ライトが生み出したスーパーロボット『ロックマン』の活躍により鎮圧された。
Dr.ワイリーは逃亡して行方不明となり、急速に復興した街は平和を取り戻したかに思えた。
だが悪魔が刻んだ爪痕は事件後も深く残り、人々やロボットに暗い影をおとしていたのだった。


 「Dr.ライト製のロボットは危険だ!!」
 「暴走する危険性のあるロボットは、全て廃棄処分にしろ!!」
 「破壊兵器で平和を脅かすテロリストを許すな!!」
世論に厳しい声が飛び交う最中、ロボット暴走事件の処理について連邦議会が開かれていた。
そして暴走したロボット達の製作者であるライト博士は、重要参考人として議会に招致された。
 「・・・ですから、何度言ったら分かるのですか!!今回のロボット暴走事件は、決してロボットの電子頭脳の故障が原因ではありません!!・・・まして彼らの意志が望んだ事でもなければ、私が命令した事でもありません!!彼らはこの特殊な洗脳プログラムが入力されたチップを組み込まれ、人為的に暴走させられていたのです!!」
殆ど全ての議員達が冷やかな目で見下ろす中、渦中のライト博士は必死に弁明を繰り返す。
その様子はテレビやインターネットを通じて全世界に中継され、世界中の人々が注目していた。
 (・・・ライト博士・・・)
両手に特殊な手錠を掛けられ、監獄の様な別室に待機・・・いや監禁されているロックやロール、カットマン達6人も、モニターに映し出されたライト博士を心配そうに見守る。
 「・・・ねえ、ボク達どうなっちゃうのかな・・・?」
 「大丈夫よ、ライト博士が絶対に何とかしてくれるわ」
不安になって涙ぐむアイスマンに、ロールが優しく微笑んで言葉を掛ける。
 「あれだけの問題を起こしちまったんだ。スクラップになるしかねえよ・・・」
 「少なくとも仕事復帰は無理だろうな・・・」
早くも諦めムードのボンバーマンとガッツマンは、落胆の溜息を付いて項垂れる。
 「ちょっと何よアンタ達!!ライト博士を信じられないって言うの!?私達の為に、あんなに一生懸命頑張ってくれてるのに・・・私達が信じてあげなくてどうするのよ!!」
 「う・・・あ・・・いや、その・・・」
 「スマン・・・」
ロールに怒鳴られて口籠り、気不味そうに謝るボンバーマンとガッツマン。
だがこの二人に限らず、ロールも含めたこの場にいる誰もが不安感を拭い切れずにいた。
いくら自分達の生みの親を頑なに信じたくても、直面している問題は余りに大き過ぎるのだ。
次第に希望よりも不安が増していき、只でさえ暗くて重い空気がより苦しく感じられる。
 「・・・謝って済む事じゃないのは分かっているが・・・ロック、ロール、本当にすまない・・・俺達だけならまだしも、二人まで巻き込んでしまって・・・」
 「ううん、みんなが悪いんじゃないよ。みんなはDr.ワイリーに操られてたんだから・・・」
工業用ロボット6人を代表して詫びるファイヤーマンに、ロックも優しく微笑んで励ます。
 「くそっ!!こうなったのも元はと言えば、みんなあのクソジジイのせいじゃねえか!!俺達を散々悪事に利用しといて、終いには責任を全部押し付けてトンズラしやがった・・・!!今頃は俺達やライト博士がこんな目に遭ってるのを、どっかで見て笑ってやがるに違いねえんだ!!」
悔しそうに歯軋りし、部屋中に響く大声で怒りを顕わにするカットマン。
 「・・・落ち着け。ここで怒鳴り散らかした所で、どうにかなる事でもないだろう・・・」
 「てめぇ・・・この大変な時に、よくそんな落ち着いてられんな!?」
冷静に諭したエレキマンの態度が気に入らず、カットマンは怒ったまま詰め寄っていく。
しかしエレキマンは両手を相手の目前に広げ、制止したカットマンにモニターを見る様に諭す。
 「雲行きが怪しくなってきた・・・!」
ロック達もモニターを見ると、ライト博士は顔を真っ赤にして議員達に訴え続けていた。
 「これはロボットの社会的地位を陥れようとする輩の陰謀なのです!!」
 「・・・その輩と言うのが、Dr.ワイリー・・・貴方のローバート工科大学時代の同窓生だったアルバート=W=ワイリーなる人物・・・と言うわけですか」
 「・・・はい」
議長からの質問に溜息を付き、先程までの大声とは打って変わって小さく返事するライト博士。
いくら自分達や人々が酷い目に遭わされたとは言え、かつての親友を犯罪者にしたくはないと言う気持ちが、頭の片隅に僅かにあった。
 「しかしDr.ワイリーの存在は結局、確認出来ていません。全世界のあらゆる情報を管理するマザーコンピューターを検索しても、その様な人物の情報は一切見つかりませんでした」
 「ローバート工科大学やロボット工学会にも問い合わせてみましたが・・・具体的な情報は得られませんでした。あまりにも情報が少な過ぎて・・・アルバート=W=ワイリーと言う人物は、実は存在しないのではないかと言うのが、我々の捜査の結論です」
 「な・・・何ですと!?」
捜査員からの報告を聞いたライト博士は、信じられないと言う愕然の表情になった。
恐らくDr.ワイリーは得意のハッキングでマザーコンピューターに侵入し、自身に関する情報を全て消し去って、自分に捜査の手が及ばぬ様に手を打っていたのだろう。
そして彼と関わりを持ちたくない大学や学会も、組織包みで彼の存在を否定したのだ。
更に追い打ちを掛ける様に、呆れ返った議員達から次々と厳しい言葉が浴びせられる。
 「・・・まるでマンガや小説に登場する悪役みたいですな。経歴も国籍も、何もかもが謎の男・・・分かっているのは名前のみ・・・それでは話にはなりませんよ」
 「そのロボットを洗脳して暴走させたと言うチップにしても同様です。いくら解析しても開発者が不明では、そのDr.ワイリー以外の人物・・・例えば貴方が造った物ではないかと疑われても仕方ないと思いますがね」
 「ひょっとして貴方は自分の罪を逃れる為に、架空でDr.ワイリーと言う人物をでっち上げたのではないですか・・・?そして今回のロボット暴走事件も・・・それを鎮圧したロックマンの活躍も、英雄的な名声を得たくて、貴方が自作自演したのではないですか?」
 「う・・・う・・・ち、違う!!そんな事は決して・・・!」
屈辱的な質問を否定したくても、今のライト博士の立場では否定出来なかった。
全ての情報が無いと言われた以上、Dr.ワイリーの存在を証明出来るのは、自分の他には彼と実際に会って戦ったロック、そして彼に操られて暴走したカットマン達6人だけになる。
だがロックはロボットである立場から発言権が無く、議会への出席を認められなかった。
ましてやカットマン達は操られていたとは言え、実際に街を破壊した罪に問われているロボットであり、自分は彼らの製作者である以上、発言力は極めて無きに等しいのだ。
 「・・・しかし何にせよ、今回の事件ではっきりと分かりましたな。Dr.ライト・・・貴方が造ったロボットは非常に優秀ですが・・・同時に危険な破壊兵器にもなりうると言う事がね」
 「は、破壊兵器・・・わしのロボットが破壊兵器じゃと・・・」
 「ロックマンも強力な武器を装備した戦闘用ロボットである以上、暴走した工業用ロボット達より遥かに脅威です。家庭用ロボットも改造次第で、あれだけの戦闘力を持たせられると言う事・・・貴方は自分のロボットが全て、今後は決して暴走しないと断言出来ますか?」
 「あの子達は・・・自分で考え・・・正しく行動する事が・・・」
 「安全性が保障されないロボットは非常に危険です。今回の様な事件を二度と繰り返さない為にも、破壊兵器になりうる危険性を持つロボットは即刻、廃棄処分にすべきです!!」
 「決して・・・脅威でも危険でも・・・」
屈辱的な議員達の意見にショックを受け、わなわなと震えながら呟くライト博士。
自分の名誉が傷付けられた事より、自分が造ったロボット達を侮辱された事の方が辛かった。
 「静粛に!!」

ドンドンッ!!

議長が木槌を叩いた途端、騒がしかった議会は一瞬にして静まり返った。
そして遂にロボット暴走事件の処理について、連邦議会の判決が言い渡される時が来た。
 「・・・ライトナンバーズのロボット8体の稼働停止・・・及び廃棄処分を命じます!!」
その判決を聞いた途端、ライト博士は目の前が真っ白になり、言葉を失った。


 「ああ・・・」
判決を知ったボンバーマンは脱力し、その場にへなへなとへたり込んだ。
 「ちきしょ〜っ!!こんなのってありかよ!!」
情の欠片も感じられない判決に失望し、大きな目に涙を溜めて絶叫するカットマン。
ガッツマンとファイヤーマンもショックの余り、項垂れたまま言葉を発する事が出来ない。
 「・・・所詮、オレ達はロボットだと言う事か・・・人間が下した命令に納得がいかなくても、逆らう事は許されない・・・そして危険だと判断されれば、ゴミを捨てる様に処分されるしかない・・・」
冷静沈着を装うエレキマンだが、言葉には判決に対する失望と怒りがまざまざと感じ取れる。
 「うわあああ〜〜〜〜〜ん!!スクラップになんかなりたくないよ〜!!」
泣き喚くアイスマンを慰めたくても、言葉が見つからずに俯いて涙ぐむロール。
 「僕のせいだ・・・僕がDr.ワイリーを逃がさなければ、こんな事にはならなかったんだ・・・」
先の戦いで最後にしてしまった失敗を悔い、自責の念を感じて泣き崩れるロック。
 「・・・僕は何の為に戦ったんだよ・・・みんなを助けられると思ったのに・・・これじゃ戦った意味が無いじゃないか・・・みんな、ごめん・・・ごめんよ・・・」
 「ロック・・・」
大粒の涙を流して謝るロックを、ロールやガッツマン達が切なそうに見詰める。
 「何でロックが謝んだよ!?謝んなくちゃいけねえのは俺達の方・・・」

ウィーーーン・・・

カットマンがロックを慰めようとした所で、ドアが開いてライト博士が入ってきた。
 「ライト博士・・・!!」
 「博士ぇ・・・」
ロック達が悲哀の目で見詰めても、ライト博士は俯いたまま顔を上げる事が出来ない。
そしてその場に膝を付き、父親として愛する我が子達の前で懺悔の言葉を絞り出した。
 「・・・許しておくれ・・・わしは・・・わしはお前達を守る事が・・・出来なかった・・・」

ピピピ・・・カシャカシャ

その様子を天井にぶら下がり、見下ろす小さな存在がある事に誰も気付いていなかった。
悪魔の手先であるコウモリ型偵察用ロボットのバットンは、議会のライト博士やロック達の様子をカメラアイで撮影し、遠く離れた場所にいるマスターの所へ生中継していたのである。
 「クックック・・・哀れじゃなあ、ライト。そしてライトナンバーズ・・・哀れ過ぎて笑うしかないわ」
怪しげな機械類が作動する暗闇の中、かつての親友やその子達が嘆く姿を嘲笑する悪魔。
 「・・・しかし愚かな人間共が考える事は分からんのう。ワシが暴走させた連中だけなら兎も角、己らの為に戦った英雄や女子まで葬り去ろうとしておる・・・血も涙も無いと言うか・・・まあワシにすれば好都合じゃがな・・・クックククククク・・・!」

ドックン・・・ドックン・・・!!

悪魔の背後にある8つの大きなカプセルから、不気味な鼓動音が響いてくる。
 「さあ・・・目覚めの時じゃ。8人の悪魔の子らよ・・・!!」
カプセルがゆっくりと開き、その中から大量のガスが溢れ出る。
 「・・・その大いなる力を以て・・・この誤った世界を全て破壊せよ!!愚かな人間共を再び恐怖と絶望のどん底に叩き落とせ!!我が世界征服の野望を叶える為!!この偉大なるマスター、Dr.ワイリーを天才と崇める正しき新世界を創造する為に戦うのじゃ!!」

ブゥゥゥン・・・!

ガスの中に8つの異形の人影が見え、それぞれの目が怪しく真っ赤に光り輝く。
 「・・・ライトよ。今までは只の余興・・・貴様はワシの戯れに付き合っていたに過ぎんのじゃ」
そしてガスが晴れた時、悪魔の前には武装した8体の人型ロボットが立ち尽くしていた。

 「本当の戦いは・・・これからじゃ!!」




・・・Vol.2へ続く・・・


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